・・・そして急いでいつも整列して先生を待っている所に走って行きました。 僕達は若い女の先生に連れられて教場に這入り銘々の席に坐りました。僕はジムがどんな顔をしているか見たくってたまらなかったけれども、どうしてもそっちの方をふり向くことができま・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・ところが驚いたことには、参会者はすでに整列をすましていて、何のことはない私は遅刻して来た者のようであった。それで私はおそるおそる分会長の前へ出頭すると、分会長はいきなり私の顔を撲って、莫迦野郎、今頃来る奴があるかと奴鳴った。 私は点呼令・・・ 織田作之助 「髪」
・・・「第一回だから、整列の仕方と、敬礼の仕方を教えて、あとは講演です」 と、いう。「僕は欠席します。整列や敬礼の訓練をしたり、愚にもつかぬ講演を聞いたりするために、あと数日数時間しかもたぬかも知れない貴重な余命を費したくないですから・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・集合、整列、そして出発だ。Sは背嚢を肩にした。ラッパの勇しい響きと同時に、到るところで、××君万歳の声が渦をまいて、雨空に割込むように高く挙った。その声は暫く止まなかった。整列、点呼が終った。またしてもラッパだ。出発である。兵隊達は靴音を立・・・ 織田作之助 「面会」
・・・丘の上に整列していた別の中隊は、カーキ色と、百姓服が入り乱れ、蠢く方をめがけてウワッと叫びながら馳せくだりだした。 副官でない方の中尉は、通訳を、壊れかけた小屋の裏へ引っぱって行った。「何を、君、ばかなことを云ってるんだ!」 中・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・巻脚絆を巻くのがおそく、整列におくれて、たび/\一緒に聯隊本部一週の早駈けをやらされたものだ。「おい、おい!」 栗本は橇の上から呼びかけた。 田口は看護長の返事を待ちながら、傷病者がうまく橇に身を合わそうとがた/\やっているのを・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 昭和二十年八月十五日正午に、私たちは兵舎の前の広場に整列させられて、そうして陛下みずからの御放送だという、ほとんど雑音に消されて何一つ聞きとれなかったラジオを聞かされ、そうして、それから、若い中尉がつかつかと壇上に駈けあがって、「・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・終わりに近く映出される丸箱に入った蓄音機の幾何学的整列。こういったようなものが緩急自在な律動で不断に繰り返される。円形の要素としては蓄音機の円盤、工場の煙突や軒に現われるレコードのマーク。工場の入り口にある出勤登録器のダイアル。それから昼顔・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・大勢の踊手が密集した方陣形に整列して白刃を舞わし、音楽に合せて白刃と紙の采配とを打合わせる。その度ごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。音頭取が一つ拍子を狂わせるとたちまち怪我人が出来るそうである。 映画の立廻りの代・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・同じような筒形のものが整列し、それが数段に重なっている。食事をしながらぼんやり見ていると、ときどきあちこちに小さな豆電燈がついたり消えたりする。それらの灯のあるものは点ったと思うとパチ/\/\とせわしなく瞬きをしてふっと消える。器械の機構を・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫