・・・と称するもので、これは馬を襲ってそれを斃死させる魔物だそうである。これに関する自分の知識はただ、磯清氏著「民俗怪異篇」によって得ただけであって、特に自分で調べたわけではないが、近ごろ偶然この書物の記事を読んだ時に、考えついた一つの仮説がある・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・かで、げじげじ、みみず、小蛇、地蟲、はさみ蟲、冬の住家に眠って居たさまざまな蟲けらは、朽ちた井戸側の間から、ぞろぞろ、ぬるぬる、うごめき出し、木枯の寒い風にのたうち廻って、その場に生白い腹を見せながら斃死ってしまうのも多かった。安は連れて来・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ あの痩せ衰え骸骨のようになったロシアの子供等が、往来に――恐らくこれも飢から――斃死した駄馬の周囲に蒼蠅のように群がって、我勝ちに屍肉を奪い合っている写真を見たら、恐らく一目で、反感の鬼や独善的な冷淡さは、影を潜めて仕舞うだろう。到底・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
出典:青空文庫