・・・泥烏須が勝つか、大日おおひるめむちが勝つか――それはまだ現在でも、容易に断定は出来ないかも知れない。が、やがては我々の事業が、断定を与うべき問題である。君はその過去の海辺から、静かに我々を見てい給え。たとい君は同じ屏風の、犬を曳いた甲比丹や・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・すると王城を忍び出た後、ほっと一息ついたものは実際将来の釈迦無二仏だったか、それとも彼の妻の耶輸陀羅だったか、容易に断定は出来ないかも知れない。 又 悉達多は六年の苦行の後、菩提樹下に正覚に達した。彼の成道の伝説は如何に・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そして、それを早めたことが、実際ロシアの民衆にとって、よいことであったか、悪いことであったかは、遽かに断定さるべきではないと私は思うものだ。もし、私の零細な知識が、私をいつわらぬならば、ロシアの最近の革命の結果からいうと、ロシアの啓蒙運動は・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・と強く断定する言葉ではない。つまり同じ大阪弁の「そうだす」に当るのである。しかし「そうだす」と書いてしまっては、「そうだ」の感じが出ないし、といって「そうだ」と書けば東京弁の「そうだ!」の強い語感と誤解されるおそれがある。だから大阪弁の「そ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 如何にも、女に金を貢ぐために、偽せ札をこしらえていたと断定せぬばかりの口吻だ。 彼は弁解がましいことを云うのがいやだった。分る時が来れば分るんだと思いながら、黙っていた。しかし、辛棒するのは、我慢がならなかった。憲兵が三等症にかゝ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・気の毒だけれども誰も人智の有限と無限とを智慧の上から推して断定のできるものはまず無さそうだ。そのくらいの事だからまず動物と植物の区別さえろくにはつかないのサ。それから生物と死物との区別だッてろくに付けることの出来るものはまず無いのサ。生物の・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・彼はちょっと断定的な調子で言った。「金だわ……でも、……」女は盃を火鉢のふちに置いた。「でも、どうした?」 女は彼を今度は真正面から見つめて言った。「何をそんなに聞きたがるのさ。……私の家は貧乏だったの。弟妹がまだ四人もいるんだ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・と此の芸術家は、心の奥底に、そのゆるがぬ断定を蔵していて、表面は素知らぬ振りしてわが女房にも、また他の女にも、当らず触らずの愛想のいい態度で接していました。また、この不幸の芸術家は、女の芸術家というものをさえ、てんで認めていませんでした。当・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・あなたが、あれは間違いだと思う、とお書きになると、あなたが心の底から一片の懐疑の雲もなく、それを間違いだと断定して居られるように感ぜられます。私たちは違います。あいつは厭な奴だと、たいへん好きな癖に、わざとそう言い変えているような場合が多い・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・落款らしいものもなかったけれど、僕はひとめで青扇の書いたものだと断定を下した。つまりこれは、自由天才流なのであろう。僕は奥の四畳半にはいった。箪笥や鏡台がきちんと場所をきめて置かれていた。首の細い脚の巨大な裸婦のデッサンがいちまい、まるいガ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
出典:青空文庫