・・・其等の事実も弁えずして、此女に子なしと断定するは、畢竟無学の臆測と言う可きのみ。子なきが故に離縁と言えば、家に壻養子して配偶の娘が子を産まぬとき、子なき男は去る可しとて養子を追出さねばならぬ訳けなり。左れば此一節は女大学記者も余程勘弁して末・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ これを要するに、開進の今日に到着して、かえりみて封建世禄の古制に復せんとするは、喬木より幽谷に移るものにして、何等の力を用うるも、とうてい行わるべからざることと断定せざるをえず。目今その手段を求めて得ざるものなり。論者といえども自から・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・これを典して彼を買う、その功罪相償うや否や、容易に断定すべき問題にあらざるなり。 或はいう、王政維新の成敗は内国の事にして、いわば兄弟朋友間の争いのみ、当時東西相敵したりといえどもその実は敵にして敵にあらず、兎に角に幕府が最後の死力を張・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・が、単に疑うだけで、決してその心持にゃなれぬと断定するまでの信念を持っている訳でもない。雖然どう考えても、例えば此間盗賊に白刃を持て追掛けられて怖かったと云う時にゃ、其人は真実に怖くはないのだ。怖いのは真実に追掛けられている最中なので、追想・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ 余は断定を下していわん、曙覧の歌想は『万葉』より進みたるところあり、曙覧の歌調は『万葉』に及ばざるところありと。まず歌想につきて論ぜん。〔『日本』明治三十二年三月二十八日〕 歌想に主観的なるものと客観的なるものとあり。『万葉』・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・けだし芭蕉は感情的に全く理想美を解せざりしにはあらずして、理窟に考えて理想は美にあらずと断定せしや必せり。一世に知られずして始終逆境に立ちながら、竪固なる意思に制せられて謹厳に身を修めたる彼が境遇は、かりそめにも嘘をつかじとて文学にも理想を・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・まず博士の神学を挙げて二度これを満場に承認せしめこれを以て大前提とし次にビジテリアンがこれに背くことを述べて小前提とし最後にビジテリアンが故に神に背くことを断定し菜食なる小善の故に神に背くの大罪を犯すことを暗示致されました。実に簡潔明瞭なる・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ ――○―― 自分の専門以外の事について、あまり明らからしい批評的な又、断定的な言葉を放つものではない。 大抵の時には、悪い結果のみを多く得るものである、それだから、何かの話ついでに、分りもしない人が戯曲の主人公・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・彼の知性が、よりひろく、強靭であろうと欲している、その角度から少くとも、私小説的な要素を否定している意味での中間小説に対して、単純な断定をさけさせたのであったと考えられる。 昨年十二月号『群像』の月評座談会で、林房雄は、宇野浩二の書いた・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・大いに堂々と云われている結論なり断定なりが、十分精密強固な客観的事実の綜合の結果として、そう云われざるを得ないものであったことを文章のなかで自然と納得させて行く、という魅力、説得力を欠いている。文筆上の軍需景気とユーモアをもってゴシップに現・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
出典:青空文庫