・・・そういう者がないとは断言出来ないのだ。「煙が上りだしたぞ。ウェヘヘッヘ。」 伍長が病的に笑って、湯呑みをチン/\叩きだした。「やめろ!」 彼等は、髪や爪が焼ける悪臭を思い浮べた。雪に包まれた江の向うの林に薄い紫色の煙が上りだ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・馬鹿馬鹿しい死の定義を立てて断言することの出来る豪傑があるか。ナンノつまらない、死という言語は千年もたてば字引の中になくなるべき言語だよ。ナニ驚くには足らない、極りきッた論サ。死は休なりとか、死は静なりとか、死は動力の不存在なりとか、死は自・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・う見てくれば、死刑は、もとより時の法度にてらして課されたものが多くをしめているのは、論のないところだが、なんびとかよく世界万国有史以来の厳密な統計をもとにして、死刑はつねに恥辱・罪悪にともなうものだと断言しうるであろうか。いな、死刑の意味す・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 観て此に至れば、死刑は固より時の法度に照して之を課せる者多きを占むるは論なきも、何人か能く世界万国有史以来の厳密なる統計を持して、死刑は常に恥辱・罪悪に伴えりと断言し得るであろう歟、否な、死刑の意味せる恥辱・罪悪は、その有せる光栄若く・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・はたして藤さんが入れたのだとは断言できぬけれど、しかしほかのものがどう間違ったってこんな物を自分の抽斗へ入れこむわけがない。藤さんのしたことに極っている。そうすればただうっかり無意味で入れたのではない。心あって自分にくれたのである。そう推定・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ なかなか自信ありげに、単純に断言している。信じなければなるまい。 私の隣の家では、朝から夜中まで、ラジオをかけっぱなしで、甚だ、うるさく、私は、自分の小説の不出来を、そのせいだと思っていたのだが、それは間違いで、此の騒音の障害をこ・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・それだけは私、断言できます。おどかしているのではありません。あなたは、さっきから、政府だの、国家だの、さも一大事らしくもったい振って言っていますが、私たちを自殺にみちびくような政府や国家は、さっさと消えたほうがいいんです。誰も惜しいと思やし・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 私は断言する。真の芸術家は醜いものだ。喫茶店のあの気取った色男は、にせものだ。アンデルセンの「あひるの子」という話を知っているだろう。小さな可愛いあひるの雛の中に一匹、ひどくぶざまで醜い雛がまじっていて、皆の虐待と嘲笑の的になる。意外・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ しからば有色映画は全然見込みのないものであるかというと、そうは断言できない。もしも将来天才的監督によって適当なる色彩的モンタージュの方法が案出され、明暗を殺さずにそれを生かすような色彩を駆使して、これを音響と対位的に編成することができ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・従ってそれがなんらの影響もないと断言する根拠ももちろんないのである。 宇宙線が脳を通過する間に脳を組成するいろいろな複雑な炭素化合物の分子あるいは原子の若干のものに擾乱を与えてそれを電離しあるいは破壊するのは当然の事であるが、その電離ま・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
出典:青空文庫