・・・ったときにできたらしい傷あとも一々たんねんに検査して、どの折片がどういう向きに衝突したであろうかということを確かめるために、そうした引っかき傷の蝋形を取ったのとそれらしい相手の折片の表面にある鋲の頭の断面と合わしてみたり、また鋲の頭にかすか・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・各種の方面の学者はただ地震現象の個々の断面を見ているに過ぎないのではあるまいか。 これらのあらゆる断面を綜合して地震現象の全体を把握する事が地震学の使命でなくてはならない。勿論、現在少数の地震学者はとうにこの種の綜合に努力し、既に幾分の・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 停車場近くの神社で花崗石の石の鳥居が両方の柱とも見事に折れて、その折れ口が同じ傾斜角度を示して、同じ向きに折れていて、おまけに二つの折れ目の断面がほぼ同平面に近かった。これが一行の学者達の問題になった。天然の実験室でなければこんな高価・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・木の年輪にしても、これを支配する気象的要素の週期曲線はともかくもかなり平滑で連続的であるのに、杉の木の断面の半径に沿うての物理的性質の週期的曲線は必ずしも連続的平滑ではないのである。鮭の耳石の環状構造にしても、一年の間に存するたくさんの第二・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・そういう場合には、眼前の数首の歌で一つの面を作っているとすると、その面の上にも下にもいくつもの面が限りもなく層状に重畳していて、つまり一つの立体的の世界がある、その世界の一つの断面がくっきり描かれているような気がします。それである一つの歌と・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・ 円筒形の上の断面を楕円形に表わして、底面の方は直線でかいてしまう事が流行するようである。こういう流行は永くはつづくまい。「天然」と絵具だけからは絵は生れないし、「自己」と絵具ばかりからも絵は生れない。自己と天然と真剣に取組み合・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・人生上芸術上、ともに一種の因果によって、西洋に発展した歴史の断面を、輪廓にして舶載した品物である。吾人がこの輪廓の中味を充じゅうじんするために生きているのでない事は明かである。吾人の活力発展の内容が、自然にこの輪廓を描いた時、始めて自然主義・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・身体の uneasy な状態は長い時間を切って断面的にこれを想像の鏡に写す事もできようが、心の uneasy な場合すなわち心配とか、気がかりというようなものは、そういう風に印象を構成する訳には行かんだろうと。私はその攻撃に対しては、こう答・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・頁から頁へと一つの印画から一つの印画へとそこに描こうとされた生活の各断面が十分の量感をもって展開されていて、そこからたちのぼって来る生活の息づきに、心持よく顔をふかれるような感じをうけた。 夏の或る日、畳まった町の屋根屋根を越してずーっ・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・これらは、これらとして独自の断面から、日本の人民の生きかたについてを思わせます。「鉛筆詩抄」にあるどの詩も、その詩としておのずからな生活上のモティーヴにおいて生れていることにつよくうたれます。わたしは文学において、その点での自然性を高く評価・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
出典:青空文庫