・・・ 二 間牒 明治三十八年三月五日の午前、当時全勝集に駐屯していた、A騎兵旅団の参謀は、薄暗い司令部の一室に、二人の支那人を取り調べて居た。彼等は間牒の嫌疑のため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨の一人に、今・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ 謙三郎もまた我国徴兵の令に因りて、予備兵の籍にありしかば、一週日以前既に一度聯隊に入営せしが、その月その日の翌日は、旅団戦地に発するとて、親戚父兄の心を察し、一日の出営を許されたるにぞ、渠は父母無き孤児の、他に繋累とてはあらざれども、・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・露西亜の旅団司令部か何かに使っていたのを占領したものだ。廊下へはどこからも光線が這入らなかった。薄暗くて湿気があった。地下室のようだ。彼は、そこを、上等兵につれられて、垢に汚れた手すりを伝って階段を登った。一週間ばかりたった後のことだ。二階・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・後備旅団の一箇聯隊が着いたので、レールの上、家屋の蔭、糧餉のそばなどに軍帽と銃剣とがみちみちていた。レールを挾んで敵の鉄道援護の営舎が五棟ほど立っているが、国旗の翻った兵站本部は、雑沓を重ねて、兵士が黒山のように集まって、長い剣を下げた士官・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 翌日あたりから、石田も役所へ出掛に、師団長、旅団長、師団の参謀長、歩兵の聯隊長、それから都督と都督部参謀長との宅位に名刺を出して、それで暑中見舞を済ませた。 時候は段々暑くなって来る。蝉の声が、向いの家の糸車の音と同じように、絶間・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫