・・・ 番人は、トシエの親爺に日給十八銭で、松茸の時期だけ傭われていた。卯太郎という老人だ。彼自身も、自分の所有地は、S町の方に田が二段歩あるだけだった。ほかはすべてトシエの家の小作をしている。貧乏人にちがいなかった。そいつが、人を罵る時は、・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・そして、炭塵で真黒けになった日給三十銭の運搬華工や、ハッパをかける苦力がウヨウヨしていたね。その苦力の番だよ。夜があけると苦力は俺たちの銃剣を見てビクビクしだした。「なんだい! こんな苦力の番が何で必要があるんだい!」 俺は吐き出し・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・腕のいゝ旋盤工だから、んでなかったら、どんどん日給もあがって、えゝ給料取りになっていたんだ。」――それは他の人もそッと持っていた気持だったので、室の中が急に、今迄とは変ったものになった。――「そればかりで無いんだ。この前警察から出てくると、・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・私はただこうやって監督に云いつかって車を見ている丈でございます。私は日給三十銭の外に一銭だって貰やしません。」「ふん。どうも実にいやな事件だ。よし、お前の監督はどこに居るか、云え。」「向うの電信柱の下で立ったまま居睡りをしているあの・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・出征兵士は欠勤とし軍隊の日給をさし引いた賃銀を支給すること、各駅にオゾン発生器をおくこと、宿直手当、便所設置その他を獲得し、婦人従業員の有給生理休暇要求は拒絶されて女子の賜暇を男子と同じによこせ、事務服の夏二枚冬一枚の支給、その他を貫徹した・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ギマン政策として日給三円以上は二十銭、二円以上十銭、二円以下六銭のね上げをしたが、日給を時間制にしたので、仕事がないと一文にもならぬ。 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・十四歳から四十五歳迄の女子に三ヵ月ずつ期間を区切って午前十時から午後三時迄日給六拾銭で工場の労働をさせる。もともと家庭婦人の動員を眼目にしているから托児所の施設をも条件とし、女の労働力の社会的吸収と同時に、労務管理の改善をも計るのが趣意とさ・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・の作者の歩み出しはそのようなものとなったが、当時作者のおかれていた社会的現実は日給僅か一円なにがしの、小倉袴をはいた一下級雇員の日常であり、勤労階級の日常のうちに文学を愛好する青年たちの生活感情を、その頃のやりかたと内容とで作者は経験したの・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ほんとのお針女、日給僅か三フランを得るために、ある時はブルジョアの家に出張したり、またある時は、自家の小さな部屋――ミシンのところへ行くのにはマネキン人形をずらさなければならないという、そんな小さな部屋で働いたりしている貧しい「女裁縫師」で・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫