・・・ この話は、初期のころの作品、「日蝕」のうちに書いたことがあります。 私は、病気で、臥ていました。六つか、七つ頃のことです。昼ごろ、母は、使から帰って来ました。そしておみやげに、大きな巴旦杏を枕許に置いてくれました。私は熱のため・・・ 小川未明 「果物の幻想」
・・・それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果からある程度まで確かめられたので、事柄は世人の眼に一種のロマンチックな色彩を帯びるようになって来た。そして人々はあたかも急に天から異人が降って来たかのように驚異の眼を彼の身辺に集注した。 彼の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・例えば『永代蔵』では前記の金餅糖の製法、蘇枋染で本紅染を模する法、弱った鯛を活かす法などがあり、『織留』には懐炉灰の製法、鯛の焼物の速成法、雷除けの方法など、『胸算用』には日蝕で暦を験すこと、油の凍結を防ぐ法など、『桜陰比事』には地下水脈験・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・もし星学者が日蝕を予報すると同じような決定的な意味でいうなら、私は不可能と答えたい。しかし例えば医師が重病患者の死期を予報するような意味においてならばあるいは将来可能であろうと思う。しかし現在の地震学の状態ではそれほどの予報すらも困難である・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・しかるにもし人間以上の官能を有するいわゆるマクスウェルの魔のごときものありて、分子一つ一つの排置運動を認めその運動や結合の方則を知りて計算するを得ば、少なくも吾人が日蝕を予報するくらいの確かさをもってこれらの現象を予報するを得べし。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・これらの記事を日蝕に比べる説もあったようであるが、日蝕のごとき短時間の暗黒状態としては、ここに引用した以外のいろいろな記事が調和しない。神々が鏡や玉を作ったりしてあらゆる方策を講じるという顛末を叙した記事は、ともかくも、相当な長い時間の経過・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・たとえ遊星運動の説明に関する従来の困難がかなりまで除却され、日蝕観測の結果がかなりまで彼の説に有利であっても、それはこの理論の確実性を増しこそすれ、厳密な意味でその絶対唯一性を決定するに充分なものであるとはにわかには信じられない。スペクトル・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・天文学者の計算によるとその日に日食はなかったはずだという事である。 戦いは王に不利であった。……王はトーレ・フンドに切りつけたが、魔法の上着は切れなかった。そしてトーレの着たとなかいの皮からぱっと塵が飛び散った。王は将軍のビオルン(熊に・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・ また、一昨年一二月八日に金星の日食ありて、諸外国の天文家は日本に来て測量したり。この時において、学者は何の観をなしたるか。金の魚虎は墺国の博覧会に舁つぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ならずや。 また・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・天照大神の岩戸がくれは日蝕の物語だともいわれる。けれども、私たちに興味があるのはあのままの物語――太古の女酋長の日常の姿ではないだろうか。 ずっと後世になりヨーロッパの中世にあたる日本の藤原時代、女の人はどんなふうに縫ったり織ったりして・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫