・・・日本の婦人作家は、自身の文学の成長の過程で、旧来、女子供と一括されて来ていたその社会のしきたりをかえて、女と子供とは二つの別のものであってそれぞれに自立した生活の内容をもって、社会にかかわりあってゆくものである事実を明瞭にしようとする時期を・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・しかし、生きている人間であってみれば、どこかでおのずからその本質が旧来のものの肯定に立っているのは感じられるのであるから、あらア石川さんと、婦人雑誌の口絵にかたまって覗きこみながら、作者の生きかたというようなものに、文学的に高められた心が発・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・人生は、複雑極るその切り口をいきなり若い人々の顔の面にさしつけている。旧来の戦争は文化の面を外見上からも萎縮させたが、今日ではそれが近代性において高度化して、戦争とともに一部に成金が生じる現象は、文化の分野にも見られるようになった。永年の窮・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・それほど、日本の旧来の文学者たちは、自身の文学の限界について自覚がなかった。いいかえれば自身発展の意欲を欠いていた。したがって保守たらざるをえない。 一九三二年に、国際情勢に関する国際的な研究結論が発表された。それによって、日本のブルジ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・でさえあればそれが新しい文学の温床なのではなくて、旧来の文壇気質やジャーナリズムの現代文学の空虚さにあきたりない何かのつよい生活的文学的欲求があり、その表現として商品性に抵抗する同人雑誌があらわれてこそ、同人雑誌としての意義がある。昭和のは・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・而も、両性関係における行動性というものも、本質に於ては日本旧来の男の恋愛行動のままの延長であったことは我々を深く考えさせる点であると思う。 能動精神という声はフランスにも日本にも聞えており、何か文化の希望を約束するかのようではあったが、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・男がそのような計量で恋愛をするのみか、若い女も今日では、あわれにもそれを近代性が彼女に与えた賢さであると勘ちがいしているのが少くない、これらの事情はもつれあって、全く旧来の家と家との縁組みの習俗へ若い世代を繋ぐかたわら、それは現代の経済内容・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・地方的なテムペラメントというものが旧来ローカル・カラアと呼ばれた以上の意味をもって文学に活かされる健全な可能も、やはり一応はそのテムペラメントをつきはなして広い空気に当ててみられる力を予定しての上でのことではなかろうか。 中央の文壇の関・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・これは、漢文読下し風な当時の官用語と、形式化した旧来の雅語との絆を脱して、自由に、平易に、動的に内心を芸術の上に吐露しようという欲求の発露であった。 ところが、二葉亭四迷の芸術によって示された文学の方向、影響は、上述の日本の事情によって・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ここでもまだ文学というものが、旧来の型にしたがって考えられており、その人々の一見平凡な勤労的日常とは何かかけ離れた、何か文学的なものによって、何か現実とはちがった色調の空気によって、作品は創られてゆくべきかのように思われている。そのために、・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫