・・・ 昔の同窓で卒業後まもなく早世したS君に行き会った。昔のとおりの丸顔に昔のとおりのめがねをかけている。話をしかけたが、先方ではどうしても自分を思い出してくれない。他の同窓の名前を列挙してみても無効である。 浜べに近い、花崗石の岩盤で・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・この人の長子は早世し、次男の Joseph Halden Struttが家を継いだ。彼は陸軍大佐となり王党の国会議員となり、Duke of Leinster の娘の Lady Fitzgerald と結婚した。これがここに紹介しようとする物・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・男子が如何に戸外に経営して如何に成功するも、内を司どる婦人が暗愚無智なれば家は常に紊乱して家を成さず、幸に其主人が之を弥縫して大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末、一朝にして大家の滅亡を告・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ それから後の数年の間に、私は日本の知識階級出の一婦人作家としては懸命な発展への道を辿り、訳者は、日本にであろうかベルリンにであろうかドイツ婦人の妻とその間に生れた子供をのこして早世した。 このローザの書翰集の粗末に扱われていたんで・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・妻に早世され、娘を早く喪ってからは店を手代にゆずって僧にもならず一種の楽隠居で、半年は旅に半年は家居して暮すという境遇の俳人、談林派の宗匠であった。町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫