・・・ これらの写真にのぼされている女の生活の姿は、昨今歳暮気分に漲って、クリスマスのおくりものや、初春の晴着の並べられている街頭の装飾と、何という際立った対照をなしている事であろう。 先頃前進座で「噛みついた娘」という現代諷刺喜劇が上演・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・日本服の晴着でも、いくらか度はずれの大盛装が少くなかったようです。あの混む省線で、押しあい、へしあいするなかに、かんざし沢山の日本髪、吉彌結びにしごきまで下げた娘さんがまじって、もまれている姿は、場ちがいで気の毒な感じでした。 美しくあ・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・正月は、ひどい寒さでもあるし、蓄えの穀物があんまり豊かでない時なので、貧しい村人は盆をたのしみに、晴着をつくりたい処も、のばしておくのである。 元日に年始に来ないものは大抵二日になっても来ない。その来ない人達は、旧の正月を祝うのである。・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・往来を晴着を着た娘達が通り、釣竿をかついだ子供が走り、がっしりとした百姓たちが、店の連中、そこにかたまっている群を斜に見、黙って縁なし帽やフェルト帽をあげながら通って行った。その夕方、ロマーシはどこかへか出て行った。小屋に独りいたゴーリキイ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 箸のすばしこい男は、三十前後であろう。晴着らしい印半纏を着ている。傍に折鞄が置いてある。 酒を飲んでは肉を反す。肉を反しては酒を飲む。 酒を注いで遣る女がある。 男と同年位であろう。黒繻子の半衿の掛かった、縞の綿入に、余所・・・ 森鴎外 「牛鍋」
出典:青空文庫