・・・坂、坂は照る照る鈴、鈴鹿は曇る、あいのあいの土山雨がふる、ヨーヨーと来るだろう。向うの山へ千松がと来るだろう。そんなのはないよ。五十四郡の思案の臍と来るよ。思案の臍とはどんな臍だろう。コイツは可笑しい、ハハハハハ痛い痛い痛い横腹の痛みをしゃ・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・きょうあ午まがらきっと曇る。おらもう少し草集めて仕舞がらな、うなだ遊ばばあの土手の中さはいってろ。まだ牧馬の馬二十匹ばかりはいるがらな。」 にいさんは向こうへ行こうとして、振り向いてまた言いました。「土手がら外さ出はるなよ。迷ってし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・もしも彼らの間に恋の花が咲いたなら、間もなく彼らを取り巻く花と空との明るさはその綿々とした異曲のために曇るであろう。だが、この空と花との美しき情趣の中で、華やかな女のさざめきが微笑のように迫るなら、愛慾に落ちないものは石であった。このためこ・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫