・・・などいう曲折せる語もあり、かたがたもって「ほほづきの色」という結句を弱からしむ。よそありきしつつ帰ればさびしげになりてひをけのすわりをる哉 句法のたるみたる様、西行の歌に似たり。「さびしげになりて」という続きも拙く「すわりを・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ところ/″\水かれ/″\蓼かあらぬか蕎麦か否か我をいとふ隣家寒夜に鍋を鳴らす 一句五字または七字のうちなお「草霞み」「雨後の月」「夜蛇を打つ」「水に銭蹈む」と曲折せしめたる妙は到底「頭よりすらすらと言い下し来たる」者の解し得・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明とともに、小市民的土・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の笠のような形に重ねられる手法、画面の中央を悠々とうねり流れている厚い白い水の曲折、鮮やかな緑青で、全く様式化されながらどっしりと、とどこおるもののない量感で据えられた山の姿、それらは、宗・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・どんな洞察こまやかさで子らの成長の過程と人生の曲折を同感し、励ましてやることができるだろう。 この頃いたるところにある結婚論で、立派な恋愛を生涯の結婚生活のなかでみのらしてゆくように、というような希望には全くふれられていないことは特色で・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・社会主義リアリズムの方法は見とおしの長い方法であるはずだ。曲折にたえて、社会と個人の相互関係については、動的で柔軟な見とおしに立たなければならない必然が、こういうところからも説明されると思う。「伸子」の批判的――と云っても主として被抑圧・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ プロレタリア文学の歴史はさまざまの曲折の道を辿るであろう。そして、その一曲の一折れは、それぞれ当時の歴史の客観的な事情と結びついて現れるのである。今日、プロレタリア文学の歴史的諸相の一つとして文学の大衆化を考えた場合、どうしても数年前・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ これらの曲折の間に、プロレタリア文学はどのような存在を続けて来ているであろうか。文学運動としての形を失いつつ、作品は書き続けられ、読者を持ち続けて今日に及んでいる。ブルジョア文学の一部が社会的動揺によって文学の独自性をも危くしかけてい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・のような静的なリリシズムに曲折するのであろう。この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ 私たち一部の作家が、この数年間に経験して来た生活の道は、実に曲折にとんでいた。一つの作品から一つの作品への間には、語りつくされぬ人間生活の汗が流された。そして、直接その汗について物語ることは困難である。 私は、益々誰にでも読まれ得・・・ 宮本百合子 「序(『乳房』)」
出典:青空文庫