・・・これは僕の最大限の君への心の言葉。きょう僕は疲れて大へん疲れて字も書きづらいのですが、急に君へ手紙を出す必要をその中で感じましたので一筆。お正月は大和国桜井へかえる。永野喜美代。」「君は、君の読者にかこまれても、赤面してはいけない。頬被・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・コールド・ウォー こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応せず、思い切り酷使しなければ、損だ。温情は大の禁物、わが身の破滅。 キヌ子に殴られ、ぎゃっとい・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ 彼らは、意識してか或いは無意識か、その奴隷根性に最大限にもたれかかっている。 彼らのエゴイズム、冷たさ、うぬぼれ、それが、読者の奴隷根性と実にぴったりマッチしているようである。或る評論家は、ある老大家の作品に三拝九拝し、そうして曰・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・われより後に来るもの、わが死を、最大限に利用して下さい。一日。 実朝をわすれず。 伊豆の海の白く立つ浪がしら 塩の花ちる。 うごくすすき。 蜜柑畑。二日。 誰も来ない。たより寄こせよ。・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・一日六時間、そのうち四時間は学校、二時間は宅で練習すれば沢山で、それすら最大限である。もしこれで少な過ぎると思うなら、まあ考えてみるがいい。若いものは暇な時間でも強い興奮努力を経験している。何故と云えば、彼等は全世界を知覚し認識し呑み込まな・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・想うに、少なくもある地質学的時代においては、起り得べき地震の強さには自ずからな最大限が存在するだろう。これは地殻そのものの構造から期待すべき根拠がある。そうだとすれば、この最大限の地震に対して安全なるべき施設をさえしておけば地震というものは・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・もういっそう手のこんでいる政治的な場面では、封建的というどんな表現さえもつかわずに、日本の封建性が旧勢力の利益のために最大限につかわれている。日本の独占資本家たちが、より強大な国際資本におんぶして大衆生活は二の次として生きのびる決心をしてか・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・何故なら、石坂氏が一プロレタリア作家牧野に最大限の階級的完全性を要求しているその感情こそ、裏をかえせば、とりもなおさず、嘗てプロレタリア作家が少なからずそれによって非難をうけて来た人間の観念化を来らしめたその感情なのであるから。そして、大森・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・科学の力が一方で最大限にその破壊の力を振るっている時には、ますます他の一方で創造の力、生きる力としての科学の力、それを動かす科学者としての情熱が必要と思われたに違いない。 一九一八年十一月の休戦の合図をマリアは研究所にいて聞いた。嬉しさ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・の世界に随喜して、最大限のほめ言葉を惜しまない人々でも、ノーベル賞、世界平和賞のために日本から送られるべき候補作品としてはただ一人も「細雪」を推薦しなかった事実である。炬燵の中の雪見酒めいた文学の風情は、第二次大戦後の人類が、平和をもとめ、・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
出典:青空文庫