・・・ 本もののヨーロッパを知っている落華生は、中国の有閑モダン女性というものに、赤面を感じるところが少くないらしい。短い、辛辣な文句が「春桃」のうちに散在している。 中国の社会を歴史の遠近もはっきりつけてヨーロッパの心の上に、くっき・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・こういう今日の一部の生活感情にとっては「有閑に楽しむ」ことと「堕落を恐れない」こととは自然に結びついている。過去の恋愛だの結婚についての辛辣な罵倒はなぜ彼女たちにとって心よいかといえば、第一目前にそんな美しい恋愛だの結婚だの家庭生活だのがな・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ メレジュコフスキーの妻であったギッピウスは、フランス文学のデカダンスの影響をうけ、革命からはなれて、前途に何の見とおしもなくなった有閑インテリゲンツィアの無気力、人生への無興味と生存の無目的。死に対してさえ冷淡な蒼白さを、大胆に、声高・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・は古い小市民の有閑的な日常茶飯事を描いているものではありません。女主人公が社会矛盾にめざめて次第に共産主義者へまで成長してゆく過程を描いているものです。日本でまたいわゆる「赤」を恐怖させるために努力がされている今日、この仕事は無意味でしょう・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・時代にでも、現実の激しい社会生活から遊離した川端康成の主観玩弄の癖は一つの特徴だった。有閑なブルジョア・インテリゲンチアらしく脳みそは一秒間にどれだけ沢山のものを連想し得るかを暇にまかせて追求し主観の転廻のうちに実現と美を構成しようとしたの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・大勢の女ばかり多い貴族的で有閑的な、つまり気力の乏しい家族にとりかこまれ、一見賑やかそうで実は孤独であったマリアは、よろこびも悲しみも、すべてを日記の中に吐露し、それを正確に吐露することで、一歩一歩と進み出て行っている。すっかり体が悪くなっ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・それは時にあるいは有閑階級にのみ可能な非実践の実践として、すなわち搾取者の奢侈として特性づけられ得るであろう。あるいはまた怯懦な知識階級の特色としての現実逃避であるとも見られるであろう。しかしこれらの観照は「悠々たる」観の世界を持つものとは・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫