・・・くすことを主要な点として押し出されたこと、而して、そのおし出しが、現実生活の中に在って既に一つの人間性の非力化へ導く広き門であることを一部の作家が論じたが、その補強的な論の建て直しは当時の気分によって望ましいようには受けいれられなかったこと・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・科学者の文筆活動の示し得る望ましい美は、こういう統一の姿においてではなかろうか。今日の科学の可能と明日の科学のために未だのこされている客観的現実の豊饒さ、科学的方法が年から年へ進歩する行進曲の意味を心と身にひき添えて科学者たることを生きる歓・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・その再発見、再確認の過程で、その人の運命と階級の運命のために、どのように望ましい力として自己を再発見するか、ということは、簡単に保証できない。その人の階級的人間性が、どのように階級としての理由によって覚醒されているかということに多くの比重が・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・望ましくない事情も、必要とあれば雄々しくたえながらしかしそれをより望ましいものに代えてゆくための努力が忘られてはならないのだと思う。どんな悪条件だっても私は平気だと自己満足に止まる心理は、しっかりとしているようで実はきわめて快い退歩的な態度・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・生活の発展こそ芸術を発展させるのであって、原稿が原稿料をもたらしてそれで女一人は食べてゆけているという状態そのものだけでは、芸術家としての生き方で望ましいものではないということが反省されました。「伸子」の後に書いた九十余枚の小説「一本の花」・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
・・・第一の若僧 私は死んでから天国に行く事よりも今都に居る事の方が望ましい。 神が天国をお教えなさるのも地獄をお教えなさるのもそれを恐れて生きて居る世を天国にして暮す様にさせ様ためになさった事だ。第二の若僧は都をしたう心に堪えか・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ それから文学批評も小さなワクをぬけ出て、人民解放のためどういう意味をもつかを人民生活の諸関係と結びつけてときあかす組織者としての批評が望ましい。そのことは批評家もともども歴史を押し進める推進力を明瞭にするいとなみに協力しあうことが大切・・・ 宮本百合子 「批評は解放の組織者である」
・・・それは疑いもない過去の宝であるけれど、例えば今日の日本に見られる文学と科学との関係のありかたなどを細かに観察すると、それがまだ文化の成育の最も望ましい開花であると迄は云切れないような段階にあるのではないだろうか。「北極飛行」のなかで、こ・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・魂を悪魔に売るともこの世界に住むことは望ましい。 それが新時代の大勢であった。地下の偶像は皆よみがえって、再び太陽の下に打ち立てられた。狂熱的な僧侶の反動もただ大勢に一つの色彩を加えたに過ぎなかった。しかし再興せられた偶像はもはや礼拝せ・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・生きている事はいたし方のない事実である。望ましいことでも望むべき事でもない。ただしかし生きている以上は本能的な生への執着がある、しなければならない事、則らなければならない法則もある。それは苦しいかもしれない、苦しくてもやむを得ない。――そも・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫