九月三日は朝方荒い雨が降った、やがて止んだが重苦しい蒸暑さがじりじりと襲って来た。仕事をしていると『中央美術』から電話が掛かって今日が二科会展覧会の招待日であることを想い出させられた。数年前まではこの日を指折り数えて楽しみ・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・その同じ季節風が朝方には陸風と打消し合って朝凪を現出することになるのである。 低気圧が近づいて来るとその影響で正常な季節風が狂って来る。低気圧による北西風が丁度この南東風を打消すようになる場合には海陸風だけが幅を利かせて、従って夕凪が顔・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・ 今朝方、暁かけて、津々と降り積った雪の上を忍び寄り、狐は竹垣の下の地を掘って潜込んだものと見え、雪と砂とを前足で掻乱した狼藉の有様。竹構の中は殊更に、吹込む雪の上を無惨に飛散るの羽ばかりが、一点二点、真赤な血の滴りさえ認められた。・・・ 永井荷風 「狐」
出典:青空文庫