・・・という未完の長編小説に、次のような一節がある。これを読んでくれると、私がさきにもちょっと言って置いたような「親が破産しかかって、せっぱつまり、見えすいたつらい嘘をついている時、子供がそれをすっぱ抜けるか。運命窮まると観じて、黙って共に討死さ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・という私の未完の小説を中心にして三十枚くらい何か書かせてもらおう、それより他に仕方がなかろうという事になったわけで、さて、それに就いてまたもあれこれ考えてみたら、どうもそれは、自作に対する思わせぶりな宣伝のようなものになりはしないか、これは・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・「火の鳥未完」 太宰治 「火の鳥」
・・・そのほか一・二篇の未完の小説は、作者が、伸子の続篇をかきたがって試みた、せつなくて短い羽ばたきである。「二つの庭」で伸子は二十七歳になっている。伸子は、社会認識の黎明にたっている。その客観のうすら明りのなかに、何とたくさんの激情の浪費が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・感想は未完でありますから山本氏の云われる事は結論まで明かではありませんけれども、私ども常識を持った一読者として「女の一生」をみた場合、作者は検事があの作品から引き出して来られたような形で母性を讚えたのではなくて、そのような自然な母の愛が此の・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・ 若い女性たちのあいだに見られたそういういいあらわしかたの本心については疑問が抱かれて、当時流行のジイドの「未完の告白」のジュヌヴィエヴの模倣も大分あるというふうに判断されていた。「未完の告白」は、知られているとおり、十六歳の学問好・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・健康悪化してこの伝記は未完のまま終っている。 八月十日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 八月十日午後五時半。夕立があがって心持よい夕方。蝉がオーシイツクツク、オシオスと鳴いています。御気分はいかがですか。私は毎日・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 逸見氏の文章を、私は様々のことを思いながら、読んだ。未完であったその「追憶」はつづけて四月十一日の『大学新聞』にのった。筆者はたっぷり、いい気持に、一種調子の高いジェスチュアをも加えて文章を進めているのであった。「マルクス主義は論壇で・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・ この考えは、未だ考えとしても発育未完なものです。まして、容易に実行され得ることではありません。 けれども、私共に、只注入された知識としてのみ、よりあるべき内容の人生の可能を知っていればよいのでしょうか。 土台をかためる、一つの・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・を書き、未完だが、やはり唯物弁証法的方法の点で失敗している。筆者は、ソヴェト同盟の大建設が世界プロレタリアート・農民にとってどんな意義をもつものかを書くのに、目的の大衆性に適応した物語りの形式を選ばず、小説の形で、信吉という人物を、主題に対・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
出典:青空文庫