・・・紙の羽織を素肌に纏い、枝つきの竹を差し物に代え、右手に三尺五寸の太刀を抜き、左手に赤紙の扇を開き、『人の若衆を盗むよりしては首を取らりょと覚悟した』と、大声に歌をうたいながら、織田殿の身内に鬼と聞えた柴田の軍勢を斬り靡けました。それを何ぞや・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・本当に知ってんねんし。柴田さんいう人でしょう」「スッポンいう渾名や」 いつの間にか並んで歩きだしていた。家の近くまで来ると、紀代子は、「さいなら。今度踉けたら承知せえへんし」 まず成功だったといえるはずだのに、別れぎわの紀代・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 髪がのびると特別じゝむさく見える柴田が、弟をすかすように、市三の肩に手を持って来た。「あン畜生、一つ斜坑にでも叩きこんでやるか!」十番坑の入口の暗いところから、たび/\の憤怒を押えつけて来たらしい声がした。「そうだ、そうだ、や・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・関君と柴田流星君が毎日のように催促に来る。社のほうだってそう毎日休むわけには行かない。夜は遅くまで灯の影が庭の樹立の間にかがやいた。 反響はかなりにあった。新時代の作物としてはもの足らないという評、自分でも予期していた評がかなり多かった・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・国語の柴田鳩翁の「道話一則」をよみ次の次の松下禅尼までよんでみた。「東遊記」のは今度図書館に行った時によんで見ようと思った、兼好法師のがあったんで「徒然草」がよみたくなってしまった。本箱から引ずり出してよみはじめたけれども分らないとこが沢山・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ 柴田杜代子さんの「未亡人のその名を呪う」。日本の社会から「未亡人」という言葉はなくされなければならない。一人の女性が、若い時から社会的活動の中に独立人として生活し、結婚しても、子供を持っても社会の独立人として基本的な生活上の権利は確保・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・淀君の母親は、秀吉に敗けた柴田勝家の妻であった。お茶々と呼ばれた少女の淀君は、美貌の母と共に秀吉の捕虜となって育った。彼女の美しさは、昔秀吉が恋着した母の美しさを匂うばかりの若さのうちに髣髴させた。年齢の相異や境遇の微妙さはふきとばして、彼・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・石橋真国と柴田是真との事である。「石橋真国は語学に関する著述未刊のもの数百巻を遺した。今松井簡治さんの蔵儲に帰している。所謂やわらかものには『隠里の記』というのがある。これは岡場所の沿革を考証したものである。真国は唐様の手を見事に書いた。職・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫