・・・袴をはくのがきらいだったので、下宿を出る時、懐へ袴をつっ込んで行き、校門の前で出してはいたという。制帽も持たなかった。だから、誰も彼を学生だと思うものはなかった。労働者か地廻りのように思っていた。貧しく育った彼は貧乏人の味方であり、社会改造・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・会場からまた拍手に送られて退出し、薄暗い校長室へ行き、主任の先生と暫く話をして、紅白の水引で綺麗に結ばれた紙包をいただき、校門を出ました。門の傍では、五、六人の生徒たちがぼんやり佇んでいました。「海を見に行こう。」と私のほうから言葉を掛・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・弟が校門を去ってからでさえ彼此六七年にはなるだろう。女学校へ入って間もなくあった校友会に出たきり、私は、文字通り御無沙汰を続けている。我々の年代にあっては、生活の全感情がいつも刻々に移り換る現在に集注されるのが自然らしい。日々の生活にあって・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・往来は一緒に歩いて来た七つ八っつの男の子と女の子たちが校門へ入ると同時に、サーと二つに分れる。 便所ではあるまいし、入口がフランスの小学校には別々に二つあるのだ。「女の子」「男の子」。 そのフランスにいたとき、語学の教師がこういうこ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・今日学生の本分が、教室での勉強にあるというならば、政府は、校門から数十万の学徒出征をさせたあの事実を、それらの青年たちに向って何と説明するつもりだろう。一人の人間が、政府の都合で勇敢な一人前の男にされたり、半人前の学生ときめられたりすること・・・ 宮本百合子 「メーデーぎらい」
・・・華やかな処女の波が校門から彼を眼がけて溢れ出した。彼は急流に洗われた杭のように突き立って眺めていた。処女の波は彼の胸の前で二つに割れると、揺らめく花園のように駘蕩として流れていった。 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫