・・・すっかり身支度をして、客は二階から下りて来て――長火鉢の前へ起きて出た、うちの母の前へ、きちんと膝に手をついて、―― 分外なお金子に添えて、立派な名刺を――これは極秘に、と云ってお出しなすったそうですが、すぐに式台へ出なさいますから・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・どんなに極秘にされた抜打ちの手入れでも、事前に洩れる。これが「警戒警報」だ。当日いよいよ手入れが始まると、直ちに「空襲警報」が飛ぶというわけだ。 右の六月十九日の検挙は、曾根崎署だけでなく、府下一斉に行われ、翌日もまたくりかえされたのだ・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ 今だから、こんな話も公開できるのですが、当時はそれこそ極秘の事件で、この町でこの事件に就いて多少でも知っていたのは、ここの警察署長とそれから、この私と、もうそれくらいのものでした。 ことしのお正月は、日本全国どこでもそのようで・・・ 太宰治 「嘘」
出典:青空文庫