・・・なぜならば、実行に先立って議論が戦わされねばならぬ時期にあっては、労働者は極端に口下手であったからである。彼らは知らず識らず代弁者にたよることを余儀なくされた。単に余儀なくされたばかりでなく、それにたよることを最上無二の方法であるとさえ信じ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・忠義をしようとしながら、周囲の人から極端な誤解を受けて、それを弁解してならない事情に置かれた人の味いそうな心持を幾度も味った。それでも私はもう怒る勇気はなかった。引きはなすようにしてお前たちを母上から遠ざけて帰路につく時には、大抵街燈の光が・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・という前提を心に置いた時か、でなくば口語詩に対して極端な反感を抱いている人に逢った時かであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ その間に、私は四五百首の短歌を作った。短歌! あの短歌を作るということは、いうまでもなく叙上・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・けれども、余り極端な事をしては不可い。夫人 (吻私、どうしたんでございましょう、人間界にあるまじき、浅ましい事をお目に掛けて、私どうしたら可いでしょうねえ。画家 (止むことを得ず、手をさすり脊筋を撫気をお鎮めなさい。人形使 (血・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・生命を何物よりも重んずることになる。生命を極端に重んずるから、死の悲哀が極度に己れを苦しめる。だから向上心の弱い人には幸福はないということになる。宗教の問題も解決はそこに帰するのであろう、朝に道を聞いて夕べに死すとも可なりとは、よく其精神を・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・もとより勝ち気な女の持ち前として、おとよがかれこれ言うたから省作は深田にいないと世間から言われてはならぬと、極端に力を入れてそれを気にしていた。それであるから、姉妹もただならぬほど睦まじいおはまがありながら、別後一度も、相思の意を交換した事・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・それ故に椿岳の生涯は普通の画人伝や畸人伝よりはヨリ以上の興味に富んで、過渡期の畸形的文化の特徴が椿岳に由て極端に人格化された如き感がある。言換えれば椿岳は実にこの不思議な時代を象徴する不思議なハイブリッドの一人であって、その一生はあたかも江・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・文人が文章に気を揉むのは当然のようであるが、今日の偶像破壊時代の文人は過去の一切の文章型を無視して、同じ苦むにしてもこれまでの文章論や美辞法からは全く離れて自由であるべきはずである。極端にいえば、思想さえ思う存分に発現する事が出来るなら方式・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・を経験し、若しくは苦痛を経験し、若しくは生活上の奮闘を余儀なくされている場合、社会の同情、博愛、慈善事業、宗教家等に依って救うということは何時まで経ってもその人間に本当の霊を見せずにしまうものである。極端なる苦痛は最後に確信と光明を与えると・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ なんでも其の顔付は、極端な腎臓病に罹っているような徴候らしくあった。それだのにこうして医者にも見せずにしかも幼児の守をさして置くのは畢竟貧しいが為ではなかろうか。人は境遇によって自然と奮闘する力の強弱がある。此児は果して生を保ち得よう・・・ 小川未明 「ある日の午後」
出典:青空文庫