・・・と云う友子さんは人間の生きている間、お金で買える贅沢をするのが、何よりの楽しみだろうと思っていたのです。それ故、友子さんの考え方から云えば、級中で一等立派な着物を着た者は、心も一等立派なのだと云う事になってしまうのです。友子さんは真個にそう・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・なぜかと問うと、暇があったら読もうと思うのが楽しみだと、君は答える。ひどく知識欲の強い人である。 二三週間立ってから、或る日私はF君がどんな生活をしているかと思って、役所からの帰掛に立見をおとずれた。丁度お上さんが門口から一匹の小犬を逐・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ 自分は山近い農村で育ったので、秋には茸狩りが最上の楽しみであった。何歳のころからそれを始めたかは全然記憶がないが、小学校へはいるよりも以前であることだけは確かである。村から二、三町で松や雑木の林が始まり、それが子供にとって非常に広いと・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫