・・・主が帰って間もない、店の燈許へ、あの縮緬着物を散らかして、扱帯も、襟も引さらげて見ている処へ、三度笠を横っちょで、てしま茣蓙、脚絆穿、草鞋でさっさっと遣って来た、足の高い大男が通りすがりに、じろりと見て、いきなり価をつけて、ずばりと買って、・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ するとその間あのおかしな子は、何かおかしいのかおもしろいのか奥歯で横っちょに舌をかむようにして、じろじろみんなを見ながら先生のうしろに立っていたのです。すると先生は、高田さんこっちへおはいりなさいと言いながら五年生の列のところへ連れて・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ おまけに水平線の上のむくむくした雲の向うから鉛いろの空のこっちから口のむくれた三疋の大きな白犬に横っちょにまたがって黄いろの髪をばさばささせ大きな口をあけたり立てたりし歯をがちがち鳴らす恐ろしいばけものがだんだんせり出して昇って来まし・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・重吉が、手さぐりで結んだネクタイを横っちょに曲げた明るい顔でドアをあけた。「いかが?」「案外だった」「そんなによくなっていたの?」「いい塩梅に病竈がどれも小さかったんですね」 吉岡が煙草に火をつけながら云った。「大体・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫