・・・嘘だと思ったら、横っ腹を見ろ。魚の鱗が生えてやがるじゃねえか。」とかで、往来でお島婆さんに遇ったと云っても、すぐに切火を打ったり、浪の花を撒いたりするくらいでした。が、その父親が歿くなって間もなく、お敏には幼馴染で母親には姪に当る、ある病身・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 団扇のような胴船が、浚渫船の横っ腹へ、眠りこけていた。 私は両手で顎をつっかって、運河の水を眺めていた。木の切れっ端や、古俵などが潮に乗って海から川の方へ逆流して行った。 セコンドメイトは、私と並んで、私が何を眺めているか検査・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまった・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・ 自分の横っ腹のところを指さして、「ここんところを、逆にひっぱられるみてえだ。俺はこれまで本読みに中坐したことはなかったが『貧農組合』にゃ半分頃で出ちまった。眠たくなってなア。本の中には滑稽なところもあるが、気持のよくねえ滑稽だ。俺・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫