犬養君の作品は大抵読んでいるつもりである。その又僕の読んだ作品は何れも手を抜いたところはない。どれも皆丹念に出来上っている。若し欠点を挙げるとすれば余り丹念すぎる為に暗示する力を欠き易い事であろう。 それから又犬養君の・・・ 芥川竜之介 「犬養君に就いて」
・・・この家の二、三年前までは繁盛したことや、近ごろは一向客足が遠いことや、土地の人々の薄情なことや、世間で自家の欠点を指摘しているのは知らないで、勝手のいい泣き言ばかりが出た。やがてはしご段をあがって、廊下に違った足音がすると思うと、吉弥が銚子・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 沼南にはその後段々近接し、沼南門下のものからも度々噂を聞いて、Yに対する沼南の情誼に感奮した最初の推服を次第に減じたが、沼南の百の欠点を知っても自分の顔へ泥を塗った門生の罪過を憎む代りに憐んで生涯面倒を見てやった沼南の美徳に対する感嘆・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・、子供という一般的の通性を観察して、それを基礎に語られますが、もし少数の場合であり、たびたび、繰返して話すことが出来る場合であったら、恐らく一人一人の性質を知ることができて、ある時は、その子供達の持つ欠点を正しく直さんがために、また足らざる・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・「貴方のような鋭い方は、あの人の欠点くらいすぐ見抜ける筈でっけど……」 どこを以って鋭いというのかと、あきれていると、女は続けて、さまざま男の欠点をあげた。「……教養なんか、ちょっともあれしませんの。これが私の夫ですというて、ひ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・むしろ多少の欠点には眼をつむって、大いにほめてやることが、彼を自信づけ、彼が永年胸にためていたものを、遠慮なく吐き出させることになるのだ。起ち上りぎわに、つづけざまに打たれて、そのまま自信を喪失した新人も多い。新人を攻撃しつづけると、彼は自・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・もし梅子嬢の欠点を言えば剛という分子が少ない事であろう、しかし完全無欠の人間を求めるのは求める方が愚である、女子としては梅子嬢の如き寧ろ完全に近いと言って宜しい、或は剛の分子の少ないところが却て梅子嬢の品性に一段の奥ゆかしさを加えておるのか・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・報告に、息せき息せき引っかえすたびに、中隊長は、不満げに、腹立たしそうな声で何か欠点を見つけてどなりつけた。 雪の上に腰を落して休んでいた武石は、「まだ交代さしてくれんのか。」ときいた。「ああ。」松木の声にも元気がなかった。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・たゞ一つ欠点は、顔の真中を通っている鼻が、さきをなゝめにツン切られたように天を向いていることだ。――それも贔屓目に見れば愛嬌だった。 彼女の家には、蕨や、いたどりや、秋には松茸が、いくらでも土の下から頭をもちあげて来る広い、樹の茂った山・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・娘の欠点は、自分の恥の源ともなります。父親のバニカンタは、却って他の娘達より深くスバーを愛しましたが、母親は、自分の体についた汚点として、厭な気持で彼女を見るのでした。 例え、スバーは物こそ云えないでも、其に代る、睫毛の長い、大きな黒い・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫