・・・――そうしてその発達がもはや完成に近い程度まで進んでいることは、その制度の有する欠陥の日一日明白になっていることによって知ることができる。戦争とか豊作とか饑饉とか、すべてある偶然の出来事の発生するでなければ振興する見込のない一般経済界の状態・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・この欠陥と不満は、すでに従来のお伽噺や、童話について感じられたことであって、児童の読物を科学的のものに引戻せという声は、その反動的のあらわれと見なければなりません。近時、児童の読物といえば、先ず科学的知識を主としたものが重きをなすようになっ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・教育を受くると云うことは経済的に殆んど不可能の事であるし、今一つは大学教授と云うような人は自分の専門的の学科には忠実であろうが、学生の人格の養成や、或はどのような人間を作ろうかなど云うような事に就ては欠陥があるように思う。今の大学などでは殆・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・おそらくあの作の持っている罪業的な暗い感じに、彼はある親味と共鳴とを感じたのでもあろうが、それがひどく欠陥のある稚拙な彼の文章から、自分にそうした曖昧な印象を与えたものであろうと思われたが、それにしても「迂濶に物は書けない……」自分は一種の・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・ 婦人が育児と家庭以外に、金をとる労働をしなければならないというのは、社会の欠陥であって、むしろやむを得ない悲惨事である。婦人を本当に解放するということは、家庭から職業戦線へ解放することではなくて、職業戦線から解放して家庭へ帰らせること・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・後なるものは前なるものの欠陥を補い、また人間の社会生活の変革や、一般科学の進歩等の影響に刺激され、また資料を提供されて豊富となって来ている。しかし後期のものがすべての点において前期のものにまさっているとはいえない。ある時代には人性のある点は・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・彼が許嫁の死の床に侍して、その臨終に立会った時、傍らに、彼の許嫁の妹が身を慄わせ、声をあげて泣きむせぶのを聴きつつ、彼は心から許嫁の死を悲しみながらも、許嫁の妹の涕泣に発声法上の欠陥のある事に気づいて、その涕泣に迫力を添えるには適度の訓練を・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・何か自分に根本的な欠陥があるのではないか、と沈思の末、はたと膝を打った。武術! これであります。私は男子の最も大事な修行を忘れていたのでした。男子は、武術の他には何も要らない。男子の一生は戦場です。諸君が、どのような仕事をなさるにしても、腕・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・私の、これは、最大欠陥である。たしかに、恥ずべき、欠陥である。 怠惰ほど、いろいろ言い抜けのできる悪徳も、少い。臥竜。おれは、考えることをしている。ひるあんどん。面壁九年。さらに想を練り、案を構え。雌伏。賢者のまさに動かんとするや、必ず・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・実際書いてみるまではほとんど完備したつもりでいるのが、さていよいよ書きだしてみると、書くまでは気のつかないでいた手ぬかりや欠陥がはっきり目について来る。そうして、その不備の点を補うためにさらに補助的研究を遂行しなければならないようになること・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫