・・・という封建武人のモラルに立って、計らず相役と事を生じるに至った。伽羅の本木を買ってかえった彌五右衛門は切腹被仰附度と願ったが、その香木が見事な逸物で早速「初音」と銘をつけた三斎公は、天晴なりとして、討たれた横田嫡子を御前によび出し、盃をとり・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・様々の面で復古趣味が見られるが、武人とその妻との関係も、今日では女の虚栄心が良人の行為の教唆者或は責任者として押し出されているというまことに興味ある新例が、前工廠長官夫人の場合に示されたと思う。虚栄心は実際多くの大小不幸の源泉となって来てい・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・窓の外に夜番の武人が持つ「たいまつ」の細長いほのおが二つ前後してかなりゆるゆるよぎって行くのが見える。思いに沈んだ様に王は話す。老人は王の体を静かに見上げ見下しして居る。王 わしはそなたが、わし位の年頃であった時の世の・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・戯曲において、題材は時に神話に溯り、封建の武人生活に戻り、西郷南洲からお吉に迄拡がるが、根本の課題は常に変らない。そして登場する人物、配役も、少くとも「津村教授」から「真実一路」に至る間は、小説と戯曲とでいくらかの違いこそあれ、これも些か注・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫