・・・ 自身攻撃されるのを防ぐために、有名人を攻撃するという、いわば相手の武器をとって、これを逆用するにも似た、そんなやり口を見て、おれは、さすがに考えやがったと思ったが、しかし、その攻撃文に「国士川那子丹造」という署名があるのを見て、正直な・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そういう意味では失敗作だったが、逞しい描写力と奔放なリアリズムの武器を持っている武田さんが、いわゆる戦記小説や外地の体験記のかわりに、淡い味の短篇を書いたことを私は面白いと思った。嘘の話だからますます面白いと思った。しかも強いられた嘘ではな・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・「ロシヤが、武器を供給したんだって? 黒龍江軍が抛って逃げた銃を見て見ろ。みんな三八式歩兵銃じゃないか!」「うむ、そうだな!」 が、噂は、やはり無遠慮にはげしくまき散らされだした。 ある夕方、彼等が占領地から営舎に帰ると、慰・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・ 兵士たちは、自分が労働者の出身であり、農民の出身でありながら、軍隊に這入ると、武器を使うことを習って、自分たちの敵である資本家や地主のために奉仕しなければならない。自分の同志や、親爺や兄弟に向って銃口をさしむけることを強いられる。・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・彼等は、扉口に立っている老婆を突き倒して屋内へ押し入ってきた。武器の捜索を命じられているのだった。「こいつ鉄砲をかくしとるだろう。」「剣を出せ!」「あなぐらを見せろ!」「畜生! これゃ、また、早く逃げておく方がいいかもしれん・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・も鍬を入れたがる、運が好ければ韓幹の馬でも百円位で買おう気でおり、支那の笑話にある通り、杜荀鶴の鶴の画なんという変なものをも買わぬと限らぬ勢で、それでも画のみならまだしもの事、彫刻でも漆器でも陶器でも武器でも茶器でもというように気が多い。そ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・わたくしはこれまで武器と云うものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。 だから、わたくしはあなたに要求します。それは明日午前十時に、下に書き記してある停・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ ――もはや、もう、私ども老人の出る幕ではないと観念いたしまして、ながらく蟄居してはなはだ不自由、不面目の生活をしてまいりましたが、こんどは、いかなる武器をも持ってはならん、素手で殴ってもいかん、もっぱら優美に礼儀正しくこの世を・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ステッキなど持って歩くと、犬のほうで威嚇の武器と勘ちがいして、反抗心を起すようなことがあってはならぬから、ステッキは永遠に廃棄することにした。犬の心理を計りかねて、ただ行き当りばったり、むやみやたらに御機嫌とっているうちに、ここに意外の現象・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 動物によってそれぞれに武器がちがい、従って闘争の手法がちがうのがおもしろい。虎や豹の闘法は比較的にいちばん人間に似ている。すなわち、かみつく、引っかく、振り飛ばすというのである。ところが、水牛となるとだいぶ人間とは流儀が違う。頭を低く・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
出典:青空文庫