・・・第二、毎朝学校へ出る前、二人一しょに見に来る事。…… ――――――――――――――――――――――――― 翌朝二人は約束通り、一しょに百合のある麦畑へ来た。百合は赤い芽の先に露の玉を保っていた。金三は右のちんぼ芽・・・ 芥川竜之介 「百合」
・・・「さてあくる日、第一にこの建札を見つけましたのは、毎朝興福寺の如来様を拝みに参ります婆さんで、これが珠数をかけた手に竹杖をせっせとつき立てながら、まだ靄のかかっている池のほとりへ来かかりますと、昨日までなかった建札が、采女柳の下に立って・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・――今夜も心ばかりお鳥居の下まで行った――毎朝拍手は打つが、まだお山へ上らぬ。あの高い森の上に、千木のお屋根が拝される……ここの鎮守様の思召しに相違ない。――五月雨の徒然に、踊を見よう。――さあ、その気で、更めて、ここで真面目に踊り直そう。・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・……私は毎朝のように、お山の妙見様へお参りに。おっかさんは、まだ寝床に居たんです。台所の薬鑵にぐらぐら沸ったのを、銀の湯沸に移して、塗盆で持って上って、中庭の青葉が、緑の霞に光って、さし込む裡に、いまの、その姿でしょう。――馴れない人だから・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・予らは毎朝毎夕浜へ出かける。朝の潮干には蛤をとり夕浜には貝を拾う。月待草に朝露しとど湿った、浜の芝原を無邪気な子どもを相手に遊んでおれば、人生のことも思う機会がない。 あってみない前の思いほどでなく、お光さんもただ懇切な身内の人で予も平・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・或人が、さぞ不自由でしょうと訊いたら、何にも不自由はないが毎朝虎子を棄てに行くのが苦労だといったそうだ。有繋の椿岳も山門住居では夜は虎子の厄介になったものと見える。 淡島堂のお堂守となったはこれから数年後であるが、一夜道心の俄坊主が殊勝・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・そして一つの工場は、製紙工場でありました。毎朝、五時に汽笛が鳴るのですが、いつもこの二つは前後して、同じ時刻に鳴るのでした。 二つの工場の屋根には、おのおの高い煙突が立っていました。星晴れのした寒い空に、二つは高く頭をもたげていましたが・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
・・・ すみれは、毎朝、太陽が上るころから、日の暮れるころまで、そのいい小鳥のなき声をききました。「どんな鳥だろうか、どうか見たいものだ。」と、すみれは思いました。 けれど、すみれは、ついにその鳥の姿を見ずして、いつしか散る日がきたの・・・ 小川未明 「いろいろな花」
・・・ 亀やんは毎朝北田辺から手ぶらで出てきて河堀口の米屋に預けてある空の荷車を受けとると、それを引っぱって近くの青物市場へ行き、仕入れた青物つまり野菜類をその車に載せて、石ヶ辻や生国魂方面へかけて行商します。私はその米屋の二階に三畳を間借り・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 豹一は毎朝新聞がはいると、飛びついて就職案内欄を見た。履歴書を十通ばかり書いたが、面会の通知の来たのは一つだけで、それは江戸堀にある三流新聞社だった。受付で一時間ばかり待たされているとき、ふと円山公園で接吻した女の顔を想いだした。庶務・・・ 織田作之助 「雨」
出典:青空文庫