・・・すすきの穂も、一本ずつ銀いろにかがやき、鹿の毛並がことにその日はりっぱでした。 嘉十はよろこんで、そっと片膝をついてそれに見とれました。 鹿は大きな環をつくって、ぐるくるぐるくる廻っていましたが、よく見るとどの鹿も環のまんなかの方に・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・ 毛並の房々したその犬は全身が白と黒とのぶちなのだが、そのぶちは胡麻塩というほど渋く落付いてもいず、さりとて白と黒の斑というほど若々しく快活でもなく、中途半端に細かくて、大きい耳を垂れ、おとなしい眼付で自身のそのようなぶちまだらをうすら・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 黒い毛並みをしとしと小雨がうるおして背は冷たく輝いて大きな眼には力強さと自由が満ちて居る。いかにものんきらしい若やいだ様子だ。 枯草の上を一足一足ときっぱり歩く足はスッキリとしまって育ったひづめの音がおだやかに響く。 小鳥さえ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ほどの曇りがある、馬の毛並が一本乱れて居るがお気に入らなんで御家来衆を試斬りになされたもので、尊がられるお館毎の御台所をほっつきめぐってごみだらけの汗みどろになってござったのは名誉にうなされるお仁でござりましたのじゃ。 御身なりと楽器と・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫