・・・ 吉田は、そう考えることによって、何かのいい方法を――今までにもう幾度か最後の手段に出た方がいい、と考えたにも拘らず、改めて又、――いい方法を、と、それが汗の中にでもあるように汗みどろになって、全速力で考え初めた。だが、汗は出たが、・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ほどの曇りがある、馬の毛並が一本乱れて居るがお気に入らなんで御家来衆を試斬りになされたもので、尊がられるお館毎の御台所をほっつきめぐってごみだらけの汗みどろになってござったのは名誉にうなされるお仁でござりましたのじゃ。 御身なりと楽器と・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・その中で、汗みどろに成った男や女が鎌を振い、火を燃して彼等の収穫にいそしんで居る。景色は美くしい。青玉のような果が鈴なりに成った梅の樹の何処かで、百舌鳥の雛っ子が盛に鳴き立てるのを聞きながら、自分は庭先の「うこぎ」の芽の延び過ぎたのを樹鋏み・・・ 宮本百合子 「麦畑」
出典:青空文庫