・・・の場合と同じく、漸移的不決定的なものである。ただ便宜上、いわゆる小説家戯曲家の書いた「多少事実と相違するらしいもの」が創作小説と名づけられ、小説家以外のものまた小説家でも「ほんとうにあったこと」と人が認めるものを書いたものが随筆の部類に編入・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・もし星学者が日蝕を予報すると同じような決定的な意味でいうなら、私は不可能と答えたい。しかし例えば医師が重病患者の死期を予報するような意味においてならばあるいは将来可能であろうと思う。しかし現在の地震学の状態ではそれほどの予報すらも困難である・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・この頃になって、自分に親しかった、そうして自分の生涯に決定的な影響を及ぼしたと考えらるるような旧師や旧友がだんだんに亡くなって行く、その追憶の余勢は自然に昔へ昔へと遡って幼時の環境の中から馴染の顔を物色するようになる。そういう想い出の国の人・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ 人間の自由意志と称するものは、有限少数な要素の決定的古典的な物理的機巧では説明される見込みのないものであるが、非常に多数な要素から成り立つ統計的偶然的体系によって説明される可能性はあるであろう。そういう説明が可能となった暁には、この宇・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・スペクトル線の変位のごときはなおさら決定的証左としての価値にかなりの疑問があるように見える。 私は科学の進歩に究極があり、学説に絶対唯一のものが有限な将来に設定されようとは信じ得ないものの一人である。それで無終無限の道程をたどり行く旅人・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・起的という言葉はいわゆるデテルミニスティックな意味での再起性を意味するものであるから、そういわれるのは一応はもっともらしいようであるが、しかし以上のいわゆる非再起的の場合でも、統計的の意味ではちゃんと決定的再起的である。そうして「方則」も統・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・ そういう種類の現象で自分が多年心にかけていたものがいろいろあるが、それらの多数はいずれも事がらが偶然的偏差に支配されるために、結果が決定的再起的でないような種類に属するものである。たとえばガラス板を平坦な台の上に置いて上から鉄の球を落・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・その時レーリーからマクスウェルに送った手紙を見ると、ウィリアム・タムソンは決定的に辞退したから、是非ともマクスウェルが就任してくれるようにと勧誘している。その手紙の中でこう云っている。「この地位に望ましい人は、ただ講義をするだけの先生ではな・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・真理は相対論者のいう如く相対的なものではなく、いわゆる直覚論者のいう如くに一度的に決定的なものでもない。問題は無限の解決を含み、解決は無限の問題を含んでいるのである。私がかつて歴史的世界は課題において自己同一を有つといったことも、此から理解・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・女は女として、男は男としてそれぞれにはっきりした生活態度を持っているということが、ここでますます決定的な条件となってくる。さもなければ、友情という感情は、その本来の人間的実質をうけることができない。よくカメラとか音楽とか、いわゆる趣味を通じ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫