・・・しかし、七篇をとおして流れている云うに云えない生真面目な、本気な、沈潜した作者たちの創作の情熱は、少くとも日本の、浅い文学の根が、ジャーナリズムの奔流に白々と洗いさらされている作品たちとは、まるで出発点からちがったものであることを痛感させた・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・は、その親しみぶかい沈潜した文章をとおして、ボルシェヴィキーの気魄を犇々と読者に感銘せしめる小説である。「オルグ」を書いた時代、前衛を描きながらも同志小林自身の実感はその境地に至らず、描かれた人物だけがどこやら公式的に凄み、肩をいからしてい・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・るけれども、日本というものが益々世界的規模で考えられるようになり、日本文学というものが従って拡大された世界文学の動きの中で考えられる時代に来つつあるとすれば、作家の生活感情の具体的な周密沈着な現実への沈潜と、その沈潜において世界史的実感が把・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・ 極言すれば、理想を高唱するものも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・全く考えに沈潜する習慣を失った、散漫で、お喋りな人間――自分に何も分っていないということについて、全く気づいていない人間をつくるに役立っている。よくならされた犬のように、ヒントで支配される隷属的人民をつくるための方法であるとさえ云える。・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・更に日本の文学が文芸思潮というものを喪ったまま動いて来ているこの数年来の実情に沈潜して思いを致せば、今日文学に地方分散の傾向の見えはじめたことの内に含まれている要素が、どんなに錯雑した過程に立つものであるかも深く考えられるわけである。中村氏・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・そして「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望」に捕えられた。 ゴーリキイは屡々泥棒のバシュキンやけいず買いのトルーソフなどとカザンカ川を越えて野原へ、灌木の茂みの中に入ってゆき、いかがわしい彼等の商売のこと、更にもっと頻繁に、生活・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒され」た。けれども、屑拾い小僧であり、板片のかっぱらいであった小さいゴーリキイを、かっぱらいの徒党のうちへつなぎきりにしなかった彼の天質の健全な力が、この場合にも一つの新しい疑問の形をとっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ けれども――そう確かにけれども、私共の言葉の裡には、私共でなければ感得し得ない何物かがあることも事実ではないだろうか、 そして、又、具体的の説明が出来ない程深く深く底の底まで沈潜して居るその「気分」は、何と云う強靭さで私の背骨を繋・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ゴーリキイは、灼熱された石炭の中に投げ込まれた一片の鉄のように自分を感じ、強烈で新鮮な印象に充たされながら、「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒された」のであった。 然し、時が経つにつれ、ゴーリキイの心に一つのつよい疑い・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫