・・・乱を好みて平安をいとう者とて、天下後世の評論を受け、あるいはその寃を訴うるによしなきを知るべからずといえども、偶然に今日の事実を見ればこそ、前年に乱を好みしは、その心事の本色に非ず、その乱はただ改めて治安をいたすの方便たりしとの事実も、はじ・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』『文芸評論』『敗北の文学』『人民の文学』。治安維持法と戦争との長い年月の間はじめの二冊の文芸評論集は発禁になっていた。著者が十二年間の獄中生活から・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・一九三二年の三月後から一九四五年八月までつづいた日本のファシズム権力は治安維持法と情報局の取しまりとで社会主義という文字そのものが印刷物にあることを禁じ、当然ソヴェト事情の公正な紹介も許さなかった。その期間ソヴェトに関して出版されたものは、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・それから、私は、当時、保護観察所と云って、治安維持法にふれたことのある人々を、四六時中つけまわして思想的生活的に制約することを仕事にしていた役所へ行って、検事であるその所長に会って話した。当時はまだ、作家の生活権を奪うということからの抗議に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・その主な一つは、治安維持法そのものの野蛮性の抉剔についてである。なぜなら、横光利一の心理主義がそこにぶつかって跳躍台としている「マルクシズムという実証主義の精神」というものの実体も、現実を掘り下げてみれば、ぶつかっているのはマルクシズムより・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・たちを政治性・階級性にふれればすなわち治安維持法でと巧みにおびやかしたし、同時に「能動精神者」たちは、当局のそのおどかしをなにかの楯として、自分たちと旧プロレタリア文学運動に属していた人々との間に越えがたい一線があるかのように行動した。この・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・この二つの作品は、日本のすべての人々にとって忘却することのできない治安維持法と戦争のために犠牲とされた理性と善意のために捧げられる。生けると死せるとにかかわらず、この二つの悪虐な力によって破壊を蒙った人間性の恢復と未来の勝利のためにささげら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・もう一つは、日本には丁度二十二年間治安維持法というものがあったという事実による。「伸子」は当時のすべての作家の作品がそうであったように、漢字が多くつかわれ、漢字にはふりがなをつけて印刷された。現代の読者にとってそれは不必要な重荷であ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
日本には、治安維持法という題の小説があってよい。そう思われるくらい、日本の精神はこの人間らしくない法律のために惨苦にさらされた。 先日、偶然のことから古い新聞の綴こみを見ていた。そしたら、一枚の自分の写真が目についた。・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・罰せられたる幾人をもたらしたのは、治安維持法であったことを人々が忘れることは無いのである。〔一九四六年三月〕 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
出典:青空文庫