・・・鉄道沿線の国道には、西へ西へと避難してゆく自動車の列がどこまでも続いている。しかしキュリー夫人はあたりの動乱に断乎として耳をかさず、憂いと堅忍との輝いている独特な灰色の眼で、日光をあびたフランス平野の景色を眺めていた。ボルドーには避難して来・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・鉄道の沿線からはじまって、目もはるかな大農場は麦の波だ。そこを、ゆるゆる地平線に向って滑走中の飛行機のようなコンバインが進行している。 古貨車を利用してこしらえた農業労働者のキャンプのわきには、炊事車が湯気を立てている最中だ。 婦人・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・スエ子はこの三日間ばかり信州八ヶ嶽の麓の小海線という高原列車の沿線へ行き美しく日にやけてかえりました。私は家でギューギュー。そして、貴方にきょう「太陽」という題でヴォルフ博士がライカ・カメラで撮った海陸写真集をお送りいたします。 もう涼・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれども、同時代の作家でたとえばピリニャークが、馬鈴薯の袋をかついで、鉄道の沿線を、あっちにゆきこっちにゆくうちに、蓄積された印象に文筆の表現を導かれはじめたのは偶然であったにちがいない。イヴァーノフが「装甲列車」を書いたのにも、積極的な意・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫