・・・ こう見てくれば、死刑は、もとより時の法度にてらして課されたものが多くをしめているのは、論のないところだが、なんびとかよく世界万国有史以来の厳密な統計をもとにして、死刑はつねに恥辱・罪悪にともなうものだと断言しうるであろうか。いな、死刑・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 観て此に至れば、死刑は固より時の法度に照して之を課せる者多きを占むるは論なきも、何人か能く世界万国有史以来の厳密なる統計を持して、死刑は常に恥辱・罪悪に伴えりと断言し得るであろう歟、否な、死刑の意味せる恥辱・罪悪は、その有せる光栄若く・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・この小さな日本を六十幾つに劃って、ちょっと隣へ往くにも関所があり、税関があり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限があり、法度でしばって、習慣で固めて、いやしくも新しいものは皆禁制、新しい事をするものは皆謀叛人であった時代を想像して御・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・と書きしことさえ思い出されてなつかし、蕪村の磊落にして法度に拘泥せざりしことこの類なり。彼は俳人が家集を出版することをさえ厭えり。彼の心性高潔にして些の俗気なきこともって見るべし。しかれども余は磊落高潔なる蕪村を尊敬すると同時に、小心ならざ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・よき采配のもとはよき法度である。よき法度のもとは正直・慈悲・智慧である。これが軍法の原理なのである。そういう着眼であるから、信玄の一代記にしても、戦国武士の言行録にしても、道徳的訓戒としての色彩が非常に濃い。 ここにはその一例として、「・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫