・・・ が、鬼神の瞳に引寄せられて、社の境内なる足許に、切立の石段は、疾くその舷に昇る梯子かとばかり、遠近の法規が乱れて、赤沼の三郎が、角の室という八畳の縁近に、鬢の房りした束髪と、薄手な年増の円髷と、男の貸広袖を着た棒縞さえ、靄を分けて、は・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・どれだけ危険だか見せてやることが出来る。どれだけ法規違反ばかりをやっているか見せてやることが出来る。――彼は、どれだけの人間が、坑内で死んじゃったかそれを思った。まるで、人間の命と銅とをかけがえにしているのと同然だった。祖母や、母は、まだ、・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・シー時代から提唱されていまだに未解決な課題が再びとりあげられているとともに、アメリカを民主国家として知る世界のすべての人にとって、それが存在し得ていることを不審に思わせていたいくつかの民主的と見えない法規への廃止と独占資本の害悪に反対する主・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・一九五〇年の十月、日本全国で二十代の男女労働者の大量が、「政治的思想的立場を理由にして、つまり国の憲法と労働関係法規とに違反して首切られました」、二十代の全国の学生は、同じく「政治的思想的立場を理由にして」追放されようとしている教授を擁護し・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・現在、さまざまの理由から労働法規を無視して失業させられている男女は、新しい何かの職業を見つけることがほとんど不可能である。しかし、一人一人生きなければならない。若い女性の前にひらいているのは、何かの形での売笑的職業でしかない、とさえ云える。・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・後の方の例を滅薙せんとする法規を改正し得ても、前者のような芽生の優生学上から見てのくされを如何ともなし難いところに、戦勝談からはもれている現実の力つよい示唆が潜んでいることを感じるのである。 近頃婦人ばかりの名を連ねて結成された二つ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 出版取締に関して未だこまかい法規が定められなかった時代の新しき日本社会で、或る種の著作が官吏侮辱という理由で罰せられたということは、何と興味ある、特質的な現象であろう。今日の情勢で大きい役割を果している日本の官僚というものが、その発生・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
若し、今日の議会に、真実な価値と信頼とを認め得るとしたら、婦人の提出したい、第一の問題は、婦人参政権、法律的独立人格の承認に関してであると思います。種々な法規が、消極的意味に於て女性に不便であり或る時は不公平であるとしても・・・ 宮本百合子 「法律的独立人格の承認」
出典:青空文庫