・・・ 船は水面を横に波状動を起して、急に烈しく揺れた。 読経をはたと留め、「やあ、やあ、かしが、」と呟きざま艫を左へ漕ぎ開くと、二条糸を引いて斜に描かれたのは電の裾に似たる綾である。 七兵衛は腰を撓めて、突立って、逸疾く一間ばか・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・電車の窓のひび割れたガラスの、そのひびの波状の線のとおりに指先をたどらせ、撫でさすって思わず、悲しい重い溜息をもらした。 高円寺。降りようか。一瞬ぐらぐらめまいした。森ちゃんに一目あいたくて、全身が熱くなった。姉を殺した記憶もふっ飛ぶ。・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ この曲線は上がったり下がったり、不規則な波状を画いているが、この波の一つの峰から次の峰までの文字数がかなり広い範囲内で色々に変っている。このような波の長さの長いのが多ければ峰の数が少なく、波が短ければ峰の数が多くなるのは勿論である。・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・かくのごとき眼より見れば、実際の等温線は大小無数の波状凹凸を有しこれが寸時も止まらず蠢動せるものと考えざるべからず。かくのごとき状態を精密に予報する事はいかなる気むずかしき世人もあえて望まざるべし。しかし今少しく規模を大きくして一村、一市街・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・後にはエーテルと称する仮想物質の弾性波と考えられ、マクスウェルに到ってはこれをエーテル中の電磁的歪みの波状伝播と考えられるに到った。その後アインスタイン一派は光の波状伝播を疑った。また現今の相対原理ではエーテルの存在を無意味にしてしまったよ・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
出典:青空文庫