・・・とまるで怒ったような声で云ってわざと頭に実を投げつけるようにして泣かせて帰しました。 ところがポーセは、十一月ころ、俄かに病気になったのです。おっかさんもひどく心配そうでした。チュンセが行って見ますと、ポーセの小さな唇はなんだか青くなっ・・・ 宮沢賢治 「手紙 四」
・・・ お君からの手紙は、事々に親を泣かせた。 辛い事を堪え堪えして居る様子が、たどたどしい筆行きにあらわれて、親の有難味が始めて分ったなどと書いてあった。 お君の手紙のつくたびに栄蔵は山岸の方の話をあせった。 けれ共、小意志(の・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・迫り、泣かせ、圧倒するリズムがあれから浸透して来ますか?ああ、私の望むもの、私の愛すもの其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。静に燃え、忽ちぱっとをあげ、やがて ほのかに 四辺を照す。 *新・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・しかしロマノフは、題材を、ごく現象の局限されたあれこれの上において、通俗小説としてのヤマや泣かせや好奇心やで引っぱって行く。文章は卑俗で平板である。 プロレタリア文学は、本質において、ブルジョア文学におけるように、芸術的小説と通俗小説と・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・これの映画は多くの女を泣かせた。そして検閲料免除になった。だが、あの小説を読んだ真面目な読者は、作者が告げようとしている「真実」の内容が具体的にはっきりしていないことに、苦痛を感じたのであった。青野氏が抒情的な筆致で「民衆の真実」をとりあげ・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・女の児をそれでおどかしては泣かせて面白がってた。すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、 ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?ときいた。ワロージャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ 祖母は、「私はもうこの年になって、小作男を泣かせても気持の悪いばかりだから、盆、暮に金をやるのを一度にやったと思って居るのさ」と云って居るから両方で荒い声なんか出す事は決してなかった。けれ共、どうしても願い通りにしてやればつけ上る気味・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・幾千人もの鼓動とともにはき出される、そのわっしょ、わっしょという力のこもった声と、ザッザッ、ザッザッという地ひびきとは、ひろ子を泣かせて、涙を抑えかねた。まわりでもこのとき泣いている人がどっさりあった。涙で頬をぬらしながら、なお、その身内を・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫