・・・廊下を歩いて洋室へ行った。洋室は寒く、がらんとしていた。白い壁に、罌粟の花の油絵と、裸婦の油絵が掛けられている。マントルピイスには、下手な木彫が一つぽつんと置かれている。ソファには、豹の毛皮が敷かれてある。椅子もテエブルも絨氈も、みんな昔の・・・ 太宰治 「故郷」
・・・そのころそのあたりに頻と新築せられる洋室付の貸家の庭に、垣よりも高くのびたコスモスが見事に花をさかせているのと、下町の女のあまり着ないメレンス染の着物が、秋晴れの日向に干されたりしているのを見る時、何となく目あたらしく、いかにも郊外の生活ら・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・それで奥さんは手水に起きる度に、廊下から見て、秀麿のいる洋室の窓の隙から、火の光の漏れるのを気にしているのである。 ―――――――――――――――― 秀麿は学習院から文科大学に這入って、歴史科で立派に卒業した。卒業論・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫