・・・あるいはあらわれていても浅薄で、狭小で、卑俗で、毫も人生に触れておらんからであります。 私は近頃流行する言語を拝借して、人生に触れておらんと申しました。私のいわゆる人生に触れると申す意味は、前段からの議論で大概は御分りになったろうとは思・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ケーベルさんは始めて日本へ来て、日本の学生が古典語を知らないで哲学を学ぶということが、如何にも浅薄に感ぜられたらしい。私が或日先生を訪問してアウグスチヌスの近代語訳がないかとお聞きしたところ、先生はお前はなぜ古典語を学ばないかといわれた。私・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・誠というものは言語に表わし得べきものでない、言語に表し得べきものは凡て浅薄である、虚偽である、至誠は相見て相言う能わざる所に存するのである。我らの相対して相言う能わざりし所に、言語はおろか、涙にも現わすことのできない深き同情の流が心の底から・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・無論浅薄じゃあるけれども、其処にまた活々とした処がある。私の様に死んじゃ居ない。で、其女の大口開いてアハハハハと笑うような態度が、実に不思議な一種の引力を起させる。あながち惚れたという訳でも無い。が、何だか自分に欠乏してる生命の泉というもの・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は正しくても、舞台を踏んで遣りこなす教養がどうしても足りないので不具になる。近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の水準が定められ、喧しくがみがみ云わない代り・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ それを見て笑うなんて浅薄だという風にいえば、もちろんそうで、真に心ある人々としては決して笑って見ていられない今日の日本の時局精神の皮相的なはきちがいが、その娘さんたちの姿にも象徴されていると思う。そういう姿にある時代錯誤の感じは、単な・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ 西欧精神と日本の近代精神を比較して、日本の現代精神の皮相性、浅薄な模倣性を憎悪する人がある。それを厭うこころもちは、すべての思慮ある人の心のうちに、強く存在しているけれども、その厭わしさを、とりあげてよくよく調べてみれば、日本人の精神・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ ただしかし、その体験が浅薄なゆえに偽りを含んでいるとしたら―― 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・しかし必ずしも悔いはしない。浅薄ではあっても、とにかく予としては必然の道であった。そうしてこの歯の浮くような偶像破壊が、結局、その誤謬をもって予を導いたのであった。――予は病理的に昂進した欲望をもって破壊に従事した。行き過ぎた破壊は予を虚無・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・がいかに浅薄であるかについてはほとんど省慮することなしに。 彼らは概念的であることを非常にきらう。そうして彼ら自身の感じ方がすでに概念的であることには気づかない。二 私はここで「自然」の語義を限定しておく必要を感ずる。こ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫