・・・ 彼の死を、長谷川如是閑のように、理智と本能の争いの結果とも見得るし、内的の力の消長の潮流の工合とも見られるのだ。 自分にとって、波多野氏の方から誘惑したとかどうとか云うことは窮極の問題ではない。誘惑と云うものは、あって無いものだ。・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・ 芸術における民族の特質の微妙で複雑な消長が、ここからも私たちの心に訴えて来ると思う。民族性を古典の規範にしばりつけて考える誤りも明白に理解されるし、さりとて、その新しい展開が単に技法上の新展開だけで齎らされるものでないことも、痛切に考・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・の作者が、永く困難な日本の文化の発展の消長と自身の努力とをはっきり結びつけて認識されることを期待する。そして、さらによい第二冊目への努力が、とりもなおさず、家庭における妻、母の境遇をましなものとし得る実践とし、同時に文学的生長の姿として現れ・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・左翼の運動は日本の資本主義社会の特殊な人工培養性に従って全く独得な歴史を持つものであるが、プロレタリア文学運動の消長もこの全体的な特徴に影響を受けている。客観的情勢が満州事件と同時に急転した。このことと団体に被った被害の甚大であったこと、他・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・純粋小説論の成立点を技術的には近代人の自意識において解決しようとしている横光利一氏が、却って、近代日本における複雑独自な自我の消長史を私小説の推移の裡に見ることが出来ないでいるという、興味ある矛盾の事実を照し出す結果になった。横光氏の自我、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・此の二方面の力の消長に、人は聰明でなければなりません。一面から申せば、彼女等の苦しむ事と、私共の苦しむ事とは同じでございます。そして総ての人間が苦痛と思う事なのだと云う事になるのでございます。 斯様に書きながらも思う事でございますが、他・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本における自然主義の消長として荷風の社会批評精神の舞い下りは「嘲笑」ぬきで語れないし、宇野浩二の新しい文学の世代としての第一歩の飛躍は「蔵の中」ぬきに云うことが出来ない。従って、その体に作品をからみつけて、或は腹の中に蠢く作品の世界にうな・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・がその文学的な対立物であったプロレタリア文学運動の消長と共に、その後の二三年間に解体したことは、その後今日に到る間にかつての同人たちが辿り来っている作家としての足どりと眺め合せて、感想をそそられるものがあると思う。 今日知性の作家と称せ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・その国の歴史の動きというものはまた実に複雑な性質をもっていて、決して手品師の一本の棒の上でまわっている一枚の皿のようなものではなく、種々様々の国内の社会構成の力の消長によって推移する。その複雑ないくつもの社会的な力の摩擦融合の根源は、世界史・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のなかで女はどのような社会的歩きかたをして来た・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
出典:青空文庫