・・・やはり故郷にかえってみても自分はここに生涯を終る人間でないという感じを深めている人が多い。経済的な点からもこのことはきている。 文学の創造の中で故郷は昔と違った実際の姿でかかれるときがきている。ましてや現在、それぞれの大都会で、或は山間・・・ 宮本百合子 「故郷の話」
・・・そして、一層磨かれ、深められ豊かにされた情熱で、自身を貴方にとって遺憾ないものであるように仕事し、我々の心は充ち満ちて、どうしてうたわずに居られよう。ねえ。貴方はそこで可能な最上の生活を営んでいらっしゃる。今は私もそのディテールを知って居る・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 日本は未曾有の生活を経験をしていて、この経験はこの先々益々深められてゆくものだから、文学にしろ、そういう私たちの生きてゆく歴史のなかで、変らずにいることは全くあり得ない。日本にも新しい文学は生れるだろう。私たちが、忠実に現代の日本の辛・・・ 宮本百合子 「古典からの新しい泉」
・・・ 輸入映画が国外の興業資本によって日本の文化に植民地的な影響を深めつつあるとき、日本の心あるすべての人々は、日本の人民生活の実感を芸術化した日本の映画の発展を熱望している。放送討論会でも日本映画の将来については大衆の熱心で支持的な発言が・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 一つの着眼であると思われたが、作家は何の力によって成長展開するかという前途多難な課題の内からみると、あの三通りのそれぞれ一風変った名の持主たちの出現と存在とは、さらに一歩を深めて、それぞれの作家がその精神のうちにもって生きている人及び・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・従って一方には自己の情緒を深め、強め、あるいは分化させる必要が起こって来る。画の上で新境地を開拓するためにはまず内に新境地を開拓しなくてはならないのである。が、また他方では自然について学ぶということも一法であろう。すなわち情緒表現の道と並行・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ところでこの手紙を書いているうちに、小生が少年時以来養成されて来たと思っていた皇室への情熱が、いつの間にか内容を異にしている――というよりも内容を深めているのに気づかざるを得なかった。小学中学で教え込まれた忠君愛国は、忠君即愛国、君即国であ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・――我々は現戦争のあらゆる著しい特質を見まわしたあとで、結局、最近の自然力支配は人間の罪悪と不幸とを一層深めた、という結論に到達する。すなわち解放せられた自然的欲望はその自由の悪用のゆえに貪婪の極をつくしてついに自分を地獄に投じた。人智の誇・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・その後の諸作においては絶えずこの問題に触れてはいたが、それを著しく深めて描いたのは『心』である。この作においては利己主義はついに純然たる自己内生の問題として取り扱われている。私は利己主義の悪と醜さとをかくまで力強く鮮明に描いた作を他に知らな・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
自分は現代の画家中に岸田君ほど明らかな「成長」を示している人を知らない。誇張でなく岸田君は一作ごとにその美を深めて行く。ことにこの四、五年は我々を瞠目せしめるような突破を年ごとに見せている。そうしてこの成長、突破が年ごとに迫り行くとこ・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫