・・・腰懸の傍に置いてある、読みさしの、黄いろい表紙の小説も、やはり退屈な小説である。口の内で何かつぶやきながら、病気な弟がニッツアからよこした手紙を出して読んで見た。もうこれで十遍も読むのである。この手紙の慌てたような、不揃いな行を見れば見る程・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・若者は舟の傍木へ肩を掛ける。陸からは綱を引くものが諸声に力のリズムを響かせる。かくて波を蹴散らし、足をそろえ、声を合わせて舟を砂の上に引きずり上げて行く。 一艘上がるとともに、舟にいた若者たちは直ちに綱を取って海に向かった。次の一艘が磯・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫