・・・何故なら愛は実践であり、心霊の清浄と高貴とは愛の実践によってのみ達せられるものだからである。 三 恋愛――結婚 恋愛は女性が母となるための門である。よき恋愛から入らずよい母となることはできぬ。女性は恋愛によって自・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・しかし大学にある間だけの費用を支えるだけの貯金は、恐ろしい倹約と勤勉とで作り上げていたので、当人は初めて真の学生になり得たような気がして、実に清浄純粋な、いじらしい愉悦と矜持とを抱いて、余念もなしに碩学の講義を聴いたり、豊富な図書館に入った・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・そこだけは先生の趣味で清浄に飾り片附けてある。唐本の詩集などを置いた小机がある。一方には先の若い奥さんの時代からあった屏風も立ててある。その時、先生は近作の漢詩を取出して高瀬に見せた。中棚鉱泉の附近は例の別荘へ通う隠れた小径から対岸の村落ま・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・原っぱの霜は清浄であった。月あかりのために、石ころや、笹の葉や、棒杙や、掃き溜めまで白く光っていた。「友だちもないようですね。」「ええ。みんなに悪いことをしていますから、もうつきあえないのだそうです。」「どんな悪いことを。」僕は・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・雨が頬を濡らして呉れておお清浄になったと思えて、うれしかった。成熟した女学生がふたり、傘がなくて停車場から出られず困惑の様子で、それでもくつくつ笑いながら、一坪ほどの待合室の片隅できっちり品よく抱き合っていた。もし傘が一本、そのときの私にあ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・会へ韋駄天走りに走っていって、さあ私は、ざんげする、告白する、何もかも白状する、ざんげ聴聞僧は、どこに居られる、さあ、さあ私は言ってしまう、とたいへんな意気込で、ざんげをはじめたそうですが、聴聞僧は、清浄の眉をそよとも動がすことなく、窓のそ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ありとあらゆる罪悪の淵の崖の傍をうろうろして落込みはしないかとびくびくしている人間が存外生涯を無事に過ごすことがある一方で、そういう罪悪とおよそ懸けはなれたと思われる清浄無垢の人間が、自分も他人も誰知らぬ間に駆足で飛んで来てそうした淵の中に・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 三五八頁には右の手を清浄な事に使い、左の手を汚れに使う種族の事がある。 これもある意味では世界中の文明人が今現にやっている習俗と同じ事である。 三五九頁にはこんな事がある。 債務者が負債を払わないで色々な口実を設けて始末の・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・二つのものが純一無雑の清浄界にぴたりと合うたとき――以太利亜の空は自から明けて、以太利亜の日は自から出る。 女は又歌う。「帆を張れば、舟も行くめり、帆柱に、何を掲げて……」「赤だっ」とウィリアムは盾の中に向って叫ぶ。「白い帆が山影を・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・世間に言う姦婦とは多くは斯る醜界に出入し他の醜風に揉れたる者にして、其姦固より賤しむ可しと雖も、之を養成したる由来は家風に在りと言わざるを得ず。清浄無垢の家に生れて清浄無垢の父母に育てられ、長じて清浄無垢の男子と婚姻したる婦人に、不品行を犯・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫