・・・その途端に障子が明くと、頸に湿布を巻いた姉のお絹が、まだセルのコオトも脱がず、果物の籠を下げてはいって来た。「おや、お出でなさい。」「降りますのによくまた、――」 そう云う言葉が、ほとんど同時に、叔母と神山との口から出た。お絹は・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 大柄だと云ってもまだやっと満七つと幾月と云う体なのですものそこへ三つも氷嚢をあてて胸に大きな湿布を巻き付けられながら西洋人の様に聰明らしく大きな目で白い壁の天井をマジマジと眺め、「お母様、顔があつい、 病気してつまらないわ・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・日当りのいい八畳に臥ている重吉の湿布をとりかえながら、「こんどの足いたは、可哀想だったけれど、わるいばかりでもなかったわねえ」 ひろ子が、云った。「こんなにして、昼間、しずかに臥ていらっしゃると、しんから休まるでしょう?」「・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫