・・・架橋演習をしてるんだ。けれど兵隊のかたちが見えないねえ。」 その時向う岸ちかくの少し下流の方で見えない天の川の水がぎらっと光って柱のように高くはねあがりどぉと烈しい音がしました。「発破だよ、発破だよ。」カムパネルラはこおどりしました・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「気を付けっ」「右いおい。」「なおれっ。」「番号。」実にみんなうまくやります。 楢夫は愕いてそれを見ました。大将が楢夫の前に来て、まっすぐに立って申しました。「演習をこれからやります。終りっ。」 楢夫はすっかり面白くなって、・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・ ずうっとずうっと遠くで騎兵の演習らしいパチパチパチパチ塩のはぜるような鉄砲の音が聞えました。そらから青びかりがどくどくと野原に流れて来ました。それを呑んだためかさっきの草の中に投げ出された木樵はやっと気がついておずおずと起きあがりしき・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ そのうち防空演習がはじまった。サイレンが何度も気味わるく太く長く空をふるわして鳴りわたる。 すると、一秒ほどおくれて、その犬がきっと遠吠えをはじめた。サイレンの音よりちょっと高いだけで、終るのも、終りに近づいて音程の下ってゆく調子・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 十月初旬から中旬にかけて、モスクワ地方赤軍の演習があった。ロカフは演習へ参加するために積極的にプロレタリア作家を召集した。二十数名参加した。若い作家ばかりとは限らなかった。六十七歳のセラフィモーヴィッチが出かけた。「ツシマ」の作者ノヴ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・壁にかかってる毒ガス演習の実写、飛行機図解、銃器図解の前へ数人若い男女がかたまって案内の豆電燈をつけたり消したりしているのが見える。「帝国主義トファッシズムニ対抗セヨ」赤いプラカート。 戸のしまった種々な研究室が並んでる。が、日本女はモ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
神奈川県足柄郡下足柄村十三部落 演習中の野宿反対 人家に迷惑をかけず宿やにとめろ 宿舎のない演習なんかやめたがいいんだ。○江東地区の一人、暗闇夜、自転車をとばして地区のデンタンを電車・乗合自動車のうしろ・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・その児のためには、防空演習さえも無理であった。防空演習が、防空という実質より、一致精神の鍛錬めいたものとなってからは、そんなに弱い娘の子がいて運搬がむずかしいという実際さえも、何か精神の不一致を意味するように見られて、うちのものは漠然と気味・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
九月一日の夕刊に、物々しい防空演習の写真と一緒に市電整理案が発表された。全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円の赤字を一気にうめようと云う整理案である。・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ わがザックセン軍団につけられて、秋の演習にゆきし折り、ラアゲウィッツ村のほとりにて、対抗はすでに果てて仮設敵を攻むべき日とはなりぬ。小高き丘の上に、まばらに兵を、ザックセン、マイニンゲンのよつぎの君夫婦、ワイマル、ショオンベルヒの両公・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫