・・・ 江戸の火災の焼失区域を調べてみると、相応な風のあった場合にはほとんどきまって火元を「かなめ」として末広がりに、半開きの扇形に延焼している。これは理論上からも予期される事であり、またたとえば実験室において油をしみ込ませた石綿板の一点に放・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・と数人の村人が土を蹴立てて駆けつけて来た。火元はどっちだと消しに集ったので、明治初年の東北の深い夜の闇を一台のランプは只事ならぬ明るさで煌々と輝きわたった次第であった。得意の繭紬の蝙蝠傘も曾祖母はバテレンくさいと評した由。 北海道開発に・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・彼は暇をみて病室を出るとその火元の畠の方へいってみた。すると、青草の中で、鎌を研いでいた若者が彼を仰いだ。「その火は、いつまで焚くんです?」と彼は訊いた。「これだけだ。」と若者はいいながら火のついた麦藁を鎌で示した。「その火は焚・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫